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小指をぶつけたダイコクさんとふてくされた兎 2/8【短編小説】
ダイコクさんはお人好しが過ぎるせいで結婚詐欺にあった。
ダイコクさんと婚約者は新居のマンションのテーブルで向かいあっていた。婚約者があらたまって話があると言ってきたからだ。
ダイコクさんの婚約者は、ダイコクさんとこれから一緒に暮らすためにある治療が必要だといった。それは、兎アレルギーの治療だった。
「最近腕と顔がかゆくて、病院で検査したら兎アレルギーだったの。でもアレルギーを抑える薬が高くて」
申し訳なさそうに話す婚約者にダイコクさんはクローゼットの金庫から結婚式の費用が入った封筒を渡した。
「これで足りるかな」
婚約者は微笑んで受け取った。
「ありがとう。病院に行ってくるね」
兎のトビキチはそのやりとりをケージの中で寝たふりをして聞いていた。
婚約者は新居のマンションに帰ってくることはなかった。心配したダイコクさんは警察に相談したが事件性なしとされた。キャリーを引いて彼女が東京行きの新幹線に乗る姿が駅のカメラに映っていたらしい。
結局、ダイコクさんは渡した結婚費用を諦め、トビキチと二人で住むには広すぎる新居を引っ越したのだった。
夜、ククチ荘の二階でダイコクさんとトビキチは遅い夕食をとっていた。
「あーあ。なんでこんな狭いアパートなんだ」
トビキチが干し草をぽりぽりしながら悪態をつく。
「そういうなよ。今さ、お金なくてきついんだよ」
ダイコクさんは月見うどんをすすっている。
「お前が間抜けなせいでな。あの時、病院の検査結果見せろって言って確認しときゃな」
「本当にアレルギーだったかもしれないだろ。決めつけはよくないぞ」
「ふざけんな。だとしてもだ、なんで結婚式の費用全額渡すんだよ。いくら入ってた?」
「それは……」
「言えないんだろ。あの女、うきうきで出てったもんな」
そう。あれには百万円入ってた。
ダイコクさんはうなだれた。
「過ぎたことは忘れよう……」
言い終わる前にトビキチの後ろ蹴りが飛んできた。ダイコクさんは後ろに倒れた。
畳に大の字で仰向けになったダイコクさんの上にトビキチが飛び乗る。
「そんなだから……」
今度はトビキチが言い終わる前にダイコクさんが叫んだ。
「蜘蛛だっ」
天井に大きな蜘蛛がいた。ダイコクさんは虫が苦手だった。
ダイコクさんが飛び起き、トビキチは出しっぱなしの布団に飛ばされた。
「あぶねえな、蜘蛛くらいで騒ぐんじゃねえっ」
布団から顔を上げると、ダイコクさんは四つん這いで窓際に後退していた。
蜘蛛が天井からするすると降りてくると、ダイコクさんは四つん這いのままさらに後ろへ跳ねた。
その様子を見てトビキチが、
「お前の方が怖いわっ」
人間と兎と蜘蛛の三竦《さんすく》みの状態になった。
すると、突然蜘蛛がしゃべった。
「ご両人にお願いがあるのですが」
ダイコクさんとトビキチはまだ固まったままだった。
(続く)
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