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ノケモノの地下城 28【長編小説】
夜の洞はひんやりとしていた。キツネと猿と、暗い道を懐中電灯一本で進んでいる。
幸人は、病院のベッドで見た夢がさっそく現実になったなと思った。ため息をつく代わりに、ともに声をかけた。
「とも、大丈夫か?」
ともは、うつむいたまま、うん、とだけ返事をした。亜紀姉ちゃんのことをまだ引きずっている。秀ちゃんも、黙ってともの隣を歩いている。
それぞれの家長と連絡が取れなくなった今、私が先導しなければならないのだが、篠崎家とまともに話し合えるか心配だった。大昔に一度顔を合わせただけだ。篠崎家との窓口だった兄は、何か伝えているのだろうか。ともが亜紀姉ちゃんと連絡がつかないように、私も兄と連絡がつかない。不安は増すばかりだった。
一時間ほど洞を歩いた。何度も分岐があり、足元を小さな獣が走り去った。
「最後の分岐だよ」
ともが言った。
その分岐の先には、いかにも堅牢《けんろう》な扉があり、門番らしき男がいた。
「誰だ?」
男は灯りをかかげる。
「蔵谷幸人です。蔵谷、清藤、出田の家長と連絡が取れない異常事態なのでこちらに来ました。篠崎家の家長と話をさせてください」
「蔵谷の息子か。お前を見るのは初めてだな。なんだ、横のは。キツネと猿のガキどもか。無理だぞ。家長どうしの取り決めを知らないのか? 蔵谷家は蔵谷博人しか家長には通すなと言われている」
そんな取り決めがあったのか。幸人は粘った。
「そこをどうかお願いします。地下水脈に関わることです」
「だめだ。帰れ。来たことは伝えておいてやる」
「お願いします。龍の地図のことと関係があるかもしれませんよ。手遅れになったら水脈に影響がでます」
「脅すようなことを言う。たとえ許可が出てもな、俺は横の二人は通さんぞ。篠崎の洞を我がもの顔でうろつく薄汚いガキはな。清正公の使いの末裔か知らんが、前々から不快だったんだよ。よそ者が」
男は吐き捨てるように言った。ともと秀ちゃんの苛立つ気配が伝わってきた。
「そんなこと言わないでください。とにかく、篠崎家の家長の方に今来ていることを伝えていただけませんか。待っていますので」
「黙れ。もう帰れ。今度来る時は薄汚いガキじゃなくて、美人の姉の方でも連れてくるんだな。あれなら態度次第で入れてやるよ」
そういうと男は下品な笑みを浮かべた。
だめだ。話にならない。出直すべきだろうか。ともと秀ちゃんに相談しようとしたその時、両脇から影が飛び出した。
最初に門番の男を殴ったのは、ともだった。続いて秀ちゃんが男に馬乗りになり、口をふさいだ。
「何やってんだっ」
私は、半分悲鳴に近い声を上げ、二人に駆けよった。
(続く)
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