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ノケモノの地下城 38【長編小説】

出田秀は、篠崎努に指示された場所で待っていた人物に驚いた。
篠崎努が潜伏先として使っていた空家には、大怪我をした父と、蔵谷美陽と名乗る女性がいた。
「お父さんっ」
頭部と顔の右半分を包帯で巻かれ、布団の上で横になっている父を見て涙が溢れた。
「秀、心配するな。手当ては済んでる」
そんな弱々しいかすれ声で言われても涙は止まらない。起き上がる父の背中を支えた。
「お父さん、なんで。どうなってるの? この人は、幸人さんのお母さん?」
「すまない、色々無理をさせたな。順に説明する。篠崎努は?」
「分からない。私、どうしよう。ともと幸人さんにナイフ突き付けて地図を……」
地図をガチガチに握りしめた手を前に出す。指が思うように開かない。
「大丈夫だ」
父が指を一本ずつ開いてくれた。やっとの思いで手から離れた地図を見ると、父が頭に手を乗せた。
「本当に無理をさせたな。でも、もうひと仕事あるんだ」
父は、今の地下水脈の状況を語り始めた。

やっとついた。江津湖の洞で幸人はあたりを見回した。洞は静かだった。ここに龍の地図が保管されていたのか。
「とも、龍の地図を保管していた金庫はどこかわかるか?」
ともは黙って指をさした。懐中電灯の明かりを向けると、そこは洞の湖の先の小さな丘になっている場所で、社のようなものが鎮座していた。
「あそこにあったのか」
湖の中では、社を守るようにセンサーフィッシュが群れをなして泳いでいる。その色は、赤かった。
「おい、センサーフィッシュが……」
ともも気づいて、両手を地面につけ湖を食い入るように覗き込んでいる。
「幸人くん、毒水だ。センサーフィッシュがこんな濃い赤色になってるの初めて見た」
ともは立ち上がり、湖から後ずさった。と、そのとき大きな水音がした。湖の中から人が這い上がっている。小柄な女性。社のある丘に上がり座り込むと、こちらに顔を向けた。
「あら」
女性はそう言うと微笑んだ。
「あなた、なんで」
「幸人くん、知ってる人?」
「ああ、知ってるというか、衣川先生の家で会った人」
衣川洋子さん。
なぜこんなところに。
「あなた今どこから……」
湖に近づこうとしたそのとき、左右から強い光りが洞に差し込んだ。右側の光りの主は衣川先生と二人の男で、左側の光りの主は、亜紀姉ちゃんと山崎さんだった。

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。

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