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ノケモノの地下城 4【長編小説】
上通《かみとお》り商店街から下通《しもとお》り商店街へ渡る信号の前まで歩いた。
上通りと下通りの間を通るのは県道28号線で、県道の真ん中には路面電車のレールが敷かれている。
正面のレールから西へ視線を移すと茶臼山《ちゃうすやま》にそびえ立つ熊本城が見える。
明治10年の西南戦争前夜に天守閣は謎の出火により焼失、その後83年たった昭和35年に再建されるも、平成28年の熊本地震で天守閣、櫓、石垣は大ダメージをうけた。
令和の時代となった現在も復興途上であり、城内の傷あとは生々しい。城内にある加藤神社付近の一部の石垣は、保護のためかベッタリとしたモルタルで覆われ、いまだ手つかずの石垣には雑草が幅をきかせはじめている。
雑草の緑がこのまま城全体を覆ってしまうんじゃないかとたまに心配になる。
熊本城は別名、銀杏城《ぎんなんじょう》と呼ばれている。
築城主の加藤清正公が植樹した銀杏の木があることからその別名がついたといわれているが、私は心のなかでカラス城と呼んでいた。小学生のとき、加藤神社に初詣に行った。手水《ちょうず》をとったあと、父に手を引かれ、御神前へ進む途中、参道の木々の間から天守閣が見えた。
その天守閣の上を何羽ものカラスがぐるぐると飛んでいた。
――このカラスたちがお城を守っているんだ。
直感でそう思った。
今となっては何の根拠めない思い込みだが、この時の記憶が大人になっても城を見るたび頭をよぎり、私の記憶にとどまり続けていた。
日が完全に落ちたら、今日も城はライトアップされるだろう。
闇夜に浮かぶ黒い姿は昼に見るより畏敬の念をもたせる。やはり、カラス城の名が似合っていると思う。他県にその名を冠する城があることは分かっているのだが。
取り留めのないことを考えていると、信号が青になった。私は横断歩道を渡った先にあるバス停からバスに乗り込み、窓際に座った。
ため息がでる。
連日の猛暑で少しバテ気味だ。
外を眺めていると、窓に大粒の水滴が当たり、バチンと音がした。その一滴が夕立の合図であった。すぐに街は豪雨に包まれた。
白川は濁り、雷鳴が轟《とどろ》く。
その音は何か、生き物の鳴き声のようであった。
(続く)
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