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ノケモノの地下城 13【長編小説】

山深くにある水の洞の獄舎にて、罪人が一人、戦場の子だぬきを思い、歌っていた。

あれは子だぬき、人切り子だぬき
千馬《せんば》を率いて肥後の守《かみ》
腹に増悪、策に冷酷、田んぼの泥をも切り抜きて
空に銃声、桜に屍、心失い、子だぬき悲し

あの日、罪人は戦場で子だぬきを見た。人の姿へ偽りながらも牙を剥き出し、敵を切り捨て咆哮をあげるその姿は、やはり人ではなく獣であった。
遠くから望遠鏡で覗いていたら、子だぬきと目があった。雨で毛が濡れ、ひと回り体が細く、みすぼらしくなったそれが、こちらを見据えた。手から望遠鏡がスベり落ちた。私は恥じた。己の浅ましさを。立ち続ける気力がなくなってしまった。

子だぬきは、いまだ戦場にてか……。

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。

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