小指をぶつけたダイコクさんとふてくされた兎 4/8【短編小説】
蜘蛛は話終えると、ダイコクさんとトビキチを交互に見た。
「このとおり……」
蜘蛛は脚を折り曲げ、頭を下げる仕草をした。
ダイコクさんは、まだ四つん這いだったが、頭は蜘蛛を助けることを考え始めていた。
「なあ、トビキチ……」
ダイコクさんをさえぎるようにトビキチがいう。
「要は、飢えなきゃいいんだろう。そのおかしなものがいない場所で獲物を獲ったらどうだ。このあたりでも獲れるだろ」
蜘蛛は反論する。
「それが駄目なのです。鳥居をくぐった先、神社の中で獲ったもので腹を満たし、その上で出した糸でなければ神様の着物はできないのです」
トビキチはため息をつくように鼻を鳴らし、後ろ脚でぽりぽりと耳を掻いた。
蜘蛛が続ける。
「兎さま、あなたもあの大阿蘇は産山《うぶやま》村の神様のお使いならばご存知とは思いますが、神様というのはしきたりや手順を大事になさいます。兎さまは、秋の始まりから十五夜にいたるまでに大変なお力を持たれるとか。どうか、兎さまの力が満ちる今、この哀れな蜘蛛をお助けください」
また蜘蛛が頭を下げる。ダイコクさんは、いつのまにか正座になって聞いていた。
トビキチは、蜘蛛に一歩近づき、
「対価は?」
ダイコクさんは驚いてトビキチを見た。なんて奴だ。貧乏な神様だと言ってるじゃないか。そんな神様のもとにいる蜘蛛に貢ぎものを出せとは。
「トビキチ、それはちょっと」
蜘蛛が顔を上げる。
「ええ、もちろん準備しております。神様は、兎さまのために、団子を供える三方《さんぽう》を私に持たせてくださいました。神社に三つしかないうちの一つです」
トビキチは、ニヤリとするように前歯を出すと、よし、承った、と言った。
そして、ダイコクさんは、四つん這いになって聞いていたときから気になっていることを聞いた。
「ところで、その神社の場所はどちらで?」
蜘蛛はダイコクさんの方へ向くと、またまた頭を下げて言った。
「球磨《くま》村でございます」
ダイコクさんは翌朝、レンタカーの手配をした。
(続く)
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