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ノケモノの地下城 9【長編小説】
結局、私はともを引き止めることができず、朝から開いているという定食屋にしぶしぶついて行った。
定食屋はともの行きつけらしく、チキン南蛮が絶品だと言うので、じゃあ同じものを、と頼んだらとんでもないのが出てきた。
「お待たせしました、デラックスチキン南蛮定食いきなり団子パフェつきです。ごはんとだご汁はおかわり自由ですので、おかわりのときはお申しつけください」
店員が、高速で何か呪文を唱えて置いていったのは、三人前はあろうかという量の肉とビールジョッキに盛り付けられたアイスと団子の山だった。
とんでもない量の定食と格闘の末、清藤姉弟の事務所に着いたのは十一時だった。
清藤調査企画。金のプレートに相撲の番付の様な文字。事務所の前に立って思う。怪しげだ。なんでこう胡散臭い看板をつけるんだ。
清藤家は篠崎家同様、蔵谷家の仕事に欠かせない家の一つだ。
熊本の地下の洞に精通しており、熊本を守ってきたキツネの末裔だという。キツネの末裔とは何かと父に聞いたら、キツネとは隠語で、熊本城築城の際に滋賀県から来た石工衆のことだという。
石工は有事に備え、必ず城に抜け穴を作る。その抜け穴は地下の洞に繋がっており、熊本から滋賀までを結ぶ一大地下交通網となっているそうだ。
清藤家にはこんな逸話も残っている。
ある時、熊本城主の加藤清正公の夢にキツネの兄弟が出てきた。彼らは、清正公を慕《した》って滋賀からついてきたこと、城の適切な石材などを話した。
喜んだ清正公は、このキツネの兄弟に花岡山と茶臼《ちゃうす》山に住み、国と城を守れと命じた。その後、キツネたちはことあるごとに国と城の窮地を救ってきたという。
洞は、地下水脈の状態を管理するのに必要な場所であり、熊本城がそびえる茶臼山は、地下水脈の流れにとって重要な位置にある。水脈に何かあれば山も城も危機にさらされる。
蔵谷家に洞の情報を提供して、水脈管理の一翼を担うことは、茶臼山に住み、国と城を守るキツネの末裔たちにとって必然だった。
私が事務所の入り口で立ち止まっていると、ともから不思議そうに見られた。
「早く入りなよ」
ああ、といって私は部屋に入った。部屋は、熱気がこもっていて息がつまりそうだった。
(続く)
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