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ノケモノの地下城 11【長編小説】
篠崎耕造《しのざきこうぞう》は頭を抱えていた。
努《つとむ》が手紙一枚残して立ち去った翌日、ある報せが篠崎家を駆け巡った。
龍の地図が盗まれたーー。
地図の番人は、大量の血痕を残して行方不明だという。当然、急にいなくなった努が疑われた。
なぜこんなことに。なぜこんなタイミングで努がいなくなるんだ。努は、きっと老人たちにそそのかされたのだ。老人たちの狙いははっきりしている。金だ。爺どもめ。だが、努の目的が分からない。何をしようとしているんだ。爺どもに何を吹き込まれた? あの子の考えが分からなくなったのはいつからだったか……。
「耕造、いつまで下を向いている」
名前を呼ばれ、ちらと老人たちを見る。
努のことで話し合いの場がもたれ、篠崎家を仕切る五人の老人たちと耕造は、龍の地図が納めてあった洞にいた。洞は江津湖《えづこ》の下にある。
老人たちの手引きで努は行方をくらました。きっとそうだ。そう決まっている。
老人の一人が口を開いた。
「努は見つけ次第、水脈の蓋になってもらおうか」
「ふざけるなっ」
耕造は叫んだ。
「なぜ努がっ」
「じゃあ、誰だ? 門番を殺し、地図を盗み、この問題を引き起こしたのは」
他の老人が続ける。
「あの地図がないことで、地下水脈のコントロールができなくなっている。あの水脈の流入、蔵谷が気づくのも時間の問題だ。いや、もう感づいているかもしれない」
さらに別の老人二人も続ける。
「そうだ。篠崎が何十年かけて事を進めてきたと思っている。ここから、自由になる日は近い。そのためには、水脈のことを内々に処理しなければ」
「一度不安定になった水脈の維持には人柱がいる。繊細な感知は、いまだに人力なのだ」
いいたい放題の老人たちに耕造は言い返す。
「努が殺したと決まったわけじゃない。人柱なんて考えも時代遅れだ。あの計画のことは伏せて蔵谷を頼ればいい。まだ計画は早い。次の機会を狙え」
「何を悠長なことを。わざわざあの門番にしていた意味を分かっていないようだな。あれを引き込むのにいくら金を使ったと思ってる」
「金ならどうとでもなるだろう。河部《かわべ》の会社で取引してるのはそのためだ」
老人がため息をついていう。
「耕造、息子のこととはいえ、もうかばうな。お前を牢に入れなければならなくなる」
俺を牢にだと。この俺を。
耕造に、暗い水の記憶が湧き上がってくる。
あの暗がりが、また檻になって、襲いかかる。
(続く)
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