見出し画像

ノケモノの地下城 19【長編小説】

水が、轟《とどろ》いた。
地が響き、龍のウロコが逆立つと、毒水が染み出しはじめた。
「これで準備できたな、山崎さん」
嘉島湧水池《かしまゆうすいち》の地下にある洞で、篠崎努《しのざきつとむ》と山崎広一《やまざきこういち》は、その様子を静かに見守っていた。
洞に流れる川を懐中電灯で照らすと、群れをなして泳ぐ魚が見える。毒水が染み出しはじめたことを報せるこれらセンサーフィッシュの体は、うっすらと赤くなりはじめている。この赤が濃くなり、黒に近い色になれば、ここの水は完全に使えないことを示す。飲用はもちろん、農業用、工業用水としても使えるものじゃなくなる。「銀色金属」に汚染された水は、特殊なろ過材を通す必要がある。
「あの人たちと交渉できるレベルになるまで、二週間はかかります。洋子さんがあの布を持ってきたら一度テストも」
山崎は年下の努にも敬語を使う。
「分かったよ」
「あなたはそれまでここに。食料と水は届けます」
努はしゃがんで洞の水を照らし続けている。
「いいですね?」
「もちろん」
努はセンサーフィッシュを見つめたまま言った。
「これが終われば、地上の生活だ」

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。

いいなと思ったら応援しよう!