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ノケモノの地下城 20【長編小説】
衣川先生の家を出てから、船場町《せんばまち》までふらふら歩いていたら声をかけられた。
「幸人くんっ、やっと見つけた」
振り返ると、ともが立っていた。昨日と同じように汗をかいて。
「なんか、デジャブだなぁ」
ああ、また嫌な感じがする。
「電話出てよ。めっちゃ探したんだけど」
「悪い。よく見つけたな」
「幸人くんの家に電話したら呉服町に行ったって聞いて、昼過ぎからこの辺走り回ってたんだよ」
「そうか。母さん電話出れたんだ。今日は喉の調子いいんだな……」
衣川先生から聞いた話が受け入れられず、まだ頭がぼんやりしている。砧屋《きぬたや》の客間で地図を見ていた私に先生は、君のお爺さんからの預かりものだよ、と言った。預かりもの?なぜ先生が。だって、私の祖父は、祖父は……。先生はきっと、また私を利用しようとしている。きっと、そうだ。
頭がぐるぐるする。
「幸人くんっ、ぼんやりしてないで、事務所行くよ」
「とも、あの地図のことだけど」
「いいから、早く」
急かされて、ついていった。なんだか本当に嫌な感じがする。清藤の事務所では、出田秀がソファーに座っていた。
「秀ちゃん、久しぶりだな」
私は知った顔を見て、少しほっとした。
「幸人さん、挨拶どころじゃないです」
「え」
秀ちゃんまで不安を煽るようなことを。また頭がぐるぐるし始める。ともが、私の背中をぐいぐい押してソファーに座らせた。
「幸人くん、やばい」
「何」
そろそろ帰って、衣川先生の話を父に報せなければならないのだが。
「龍の地図が盗まれたらしい」
私の頭はパンクした。
(続く)
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