魔法使いにはなれなくても
精神保健福祉の相談業務をしていると、
精神障害のある対象者の家族から相談を受けることが
ままある。
相談内容は色々だけど、
その中の1つとしてよくあるのが、
受診を拒否(中断)している本人を受診させたい
というもの。
そういう時は、
家族への暴力とか、問題行動があるなど、
家族がほとほと困って、
なんとかしてほしいと相談にくることが多い。
ここに言えば、なんとかなるじゃないか、
なんとかしてもらえるのではないか、
なんなら、自分がどっかに行っている間に、
行政に勝手に連れて行ってもらえるのではないか、
という期待を感じることもある。
しかし、実際、行政の窓口で出来ることは限りがある。
行政には、精神障害(疑い含む)がある人を、
強制的に病院に連れて行く権限は一切ない。
精神科の入院形態の1つに
医療保護入院というものがある。
ざっくり言うと、
本人が入院を拒否していても、
入院が必要な病状と医師が判断かつ、
保護者(家族)からの同意があれば、
本人を入院させられるというもの。
家族から入院をさせたいという場合は、
医療保護入院の説明をし、
入院の同意が可能かどうかを確認する。
入院同意があるからと言って、
行政の職員が本人の首根っこ掴んで連れていける…
と言うわけでは勿論ない。
行政は、
家族が病院へ連れて行くのを後方支援する立場。
一緒に家に行き、説得したり、
病院へ一緒に行ったりということは行う。
それは、保護者である家族が中心に行うというのが、
前提にある。
そもそも、これは当たり前なんだけど、
保健師だから、
本人の言動を変えられるかというとそうではない。
そういう期待も感じることがあるが、
私たちは「魔法使い」ではない。
彼らを意のままに動かす技術があるわけではない。
じゃあ、何をしてくれるのん?
意味ないやん?
みたいな人がもいるかもしれない。
ただね、意味なくはないと思うんだよね。
いや、自分の仕事だからそう思いたいっていうのも
大いにあるとは思うけど。
例えば、
家族から聞いたことや
(実際に本人と話せたら)本人の状況を踏まえて、
入院の必要性を伝える。
書けばシンプルだけど、
ただ「変なんです!」「とにかく入院させて!」
では病院だって入院の必要性、緊急性を
判断が出来ない。
必要な情報を収集する、取捨選択し伝える。
これも専門職が行える支援の1つ。
受診を拒否する本人と対峙した時。
勿論、何をやり出すかわからない
(特に今まで関わりのあまりない人だと)
怖さとか緊張とかそういうのはある。
でも、どこか冷めた頭で見ているところもある。
だから、大声で何かを言っていても、
それが口汚い言葉でも、
感情的にならず、さらっと受け流したり、
頭の中で「躁状態」「易怒性高い」とか、
情報の1つとして取り扱っていたりする。
それに、受診を拒否する発言をしていても、
どこかで自分は変だなーという感覚があって、
説得を続けたりするうちに、
案外すんなり病院に行くこともある・・・と
経験則があったりすると、
嫌がる言動だけに振り回されない対応が取れたりする。
必殺技、魔法はなくても、
知識や経験から、
いくつかの予測を立てられる。
次にやるべきことも予測も立てられる。
予測が立てられると、
相手の言動に落ち着いて構えられる。
家族でも、本人を理解し、落ち着いて対応できる人もいる。
そういう人たちは、私たちの介入をあまり必要としない。
私たちが関わることになる場合は、
家族の方も疲弊し、いっぱいいっぱいで困っている
ということが多い。
だから、保健師が一緒に説得をする時には
家族が持つことが難しい、「心の余裕」が
説得をする上で功を奏するということが多いのではないか
と思う。
「心の余裕」と書くと、ふんわりしている。
でも、「心の余裕」を作り出しているのは、
積み重ねてきた、「知識や経験」。
そういうのを大切にすることで、
「魔法使い」にはなれなくても、
「誰かの役に立つ専門職」にはなれるということなんだろうなぁ。