これからのキャリアでは「ポートフォリオ」を組もう。複業はリスク分散をして人生を豊かに形成する最善策
1社にとどまらず、さまざまな企業で自身の能力や経験を活かして新たな活躍の場を広げる「複業人材」を紹介する本シリーズ。第2回目に登場するのは、フリーランスとして2社と業務を推進する傍ら、起業の準備もしている足苅 賢司さんです。足苅さんは新卒で入社した大手金融機関で10年間法人営業を担当しながらも、今後のキャリアについて悩みます。「成長市場に飛び込んで自分をより成長させたい」と、正社員として3社に勤務した後、コロナを機にフリーランスとして独立することを決意。正社員時代にどのようなキャリアを歩んできたのか、フリーランスとして複数の企業との業務を同時進行するコツ、またパラレルキャリアを勧める背景を伺いました。
正社員時代は大手金融機関から成長市場へ。「とにかく自分を成長させたかった」
― 足苅さんの自己紹介をお願いします。
現在(2023年12月)はフリーランスとして2つの会社と仕事をしています。ライザップグループでは初心者向けコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」の海外展開に向けた支援を、スマートフォン用のニュースアプリを提供する会社ではメディア向けの営業企画や、顧客管理ソリューションシステムの導入支援を行っています。プライベートでは体を動かすことが好きで、ジムで筋トレをしたりテニスを楽しんだりしています。
フリーランスとして独立する前は、正社員として3つの会社に勤めてきました。新卒で入社した大手金融機関には計10年在籍し、7年間は法人向け営業を、残り3年間は本銀行グループが持つ決済ソリューションをお客様に提案しました。
その後に転職したライザップグループでは、買収したアパレル会社で経理・財務からアプローチした事業再生業務を行い、子会社の法人向け事業部と経営企画部にて責任者を担当しました。3社目のエッジAI技術を使った映像解析ソリューションや映像分析エンジンを展開するスタートアップでは、全社の経営戦略を作ったり、AIプロダクトのPoC(新たな手法などの実現可能性を見出すために、試作開発に入る前に検証すること)を実施したりと、社長室長と事業開発部長を兼任しました。
― 足苅さんが大手金融機関から異業界へ転職したのはなぜでしょうか?
当時、キャリアで悩んでいたんですよね。私は同期や後輩よりも昇格が遅れていて、30歳手前の頃にはこの銀行で活躍するのは難しいだろうと分かっていました。また、業務で取引先の会長や社長をはじめ、さまざまな方と連携してきたものの、自分で事業に関する実務を行ったことがなくてビジネスパーソンとして弱い、と。事業会社の現場に入って積極的に経験を積みたいと考えていました。
2社目のライザップグループでは課長、部長、役員へと順調に役職を上げることができましたが、昇格に比例して社内の部署や人材を調整する業務が増えていき「これでいいのだろうか・・・」と疑問を抱くようになりました。成長市場に飛び込んでもっと自己鍛錬したい、社長と二人三脚で仕事をしたい、組織を作るポジションに就きたい。この3つを実現している会社を探していくうちに3社目のAIスタートアップと巡り合ったんです。
― AIスタートアップは足苅さんが過去に携わった業界や職種と異なるため、新たに学ぶことや慣れないことが沢山あったのではないでしょうか。
はい、苦労しましたね。業務ではAIやソフトウェア、ハードウェアの全てを扱うので、当初は会議の内容や単語すらも分かりませんでした。業界知識を学びながら自ら現場に飛び込んで場数を踏み、社長室長に昇格してからはプロジェクトマネジメントや経営判断、人材育成を行うようになりました。
当時、メンバー1人当たりにかかる業務量や責任が重く、みんな疲弊していて退職率も高かったので、私は全員と1on1の時間を設けて念入りなフォローに勤しんでいました。また、当時はプロダクトが完成しきれておらず、毎日、売るための提案書やオペレーションが目まぐるしく変わっていました。せっかくマニュアルを作っても水の泡になるなんてしょっちゅうでしたね。私もメンバー全員へお給料を払えるようにするためにPoCを回し、何とかクライアントからお金を頂く毎日を送っていました。
― 現在(2023年12月)はフリーランスとして2社と契約していらっしゃいます。そのうちの1社は、正社員として在籍したことのあるライザップグループなんですね。
はい。正社員時代にお世話になった上司に独立した旨を報告したことがきっかけで「また一緒に仕事しよう」とお声がけいただきました。
― 社内の人間関係や評価制度に納得できずに転職する方や、退職して疎遠になる方もいらっしゃる中、在籍していた会社と再びお仕事ができるのは素敵ですよね。
ありがとうございます。退職する時、お互いに良好な関係を維持したまま離れるように意識しました。この3年間で成長させていただいて有り難いという感謝の気持ちや、「会社やヒトが嫌になって辞めるのではない。自分がもっと成長したいので卒業したい」とキャリアへの思いを丁寧にお伝えしました。
複業する醍醐味は好きな仕事ができることと、社員が知らない景色を見られること
― どのような経緯から、フリーランスになって複数の企業と働こうと考えましたか?
コロナ禍になったタイミングで複業をしてみたい、独立しようかなと考えるようになりました。それまでは当たり前のように毎日通勤していましたが、コロナになってからリモートワークでも問題ない、好きな場所・時間で好きな仕事をする方が幸せだ、と気づいたんです。当時勤務していた会社では申請すれば複業はできましたが「足苅さんは幹部なんだから自社にリソースを注いでほしい」「会社と心中してほしい」という制約を感じ、第一歩を踏み出せずにいました。社内のしがらみが自分の挑戦する機会を奪うなら、会社に所属する働き方を続けるのは難しいだろう、と。時代の変遷に即応するためには正社員の枠にとらわれず、さまざまな業界や領域で沢山の知識・経験を得ながら自己を成長させ、選択肢やシナリオを増やしたかったんですよね。
― 複数の企業の業務を同時進行するコツについてお聞かせください。
3つあります。まず、平日の昼夜や土日祝日も含めて、スケジュールに余裕を持たせています。2つ目は、先方との期待値調整を徹底していますね。プロジェクトへ参画する前に「他社ではこういうことをしている」「オフラインのミーティングには出られないかもしれない」と制約条件があれば伝えておきます。どんな業界でどんな仕事をしているのか、またどれくらい稼働できるのかを共有しておかないと信頼関係に亀裂が入りかねないためです。3つ目は、プロジェクトへ入ったら先方が求める目的や目標を言語化し、達成するための指標や成果物を握り合っています。
― 複業をする中でデメリットだと感じることはありますか?
強いて挙げると、時間が取られることでしょうか。各社で求められる役割やペルソナ、スキルが異なるので午前中にA社、午後にB社と仕事をする時、思考を切り替えるのに時間がかかるんです。それを簡単にリセットするには「これはこの粒度でやればいいんだ」とパッと見ただけで思い出せるTO DOリストを作成しておくことです。具体的には、業務や作業を完了させるためのTO DOリストを通常よりも3〜4段階くらい細分化して書き残すようにしています。
― 複数の企業と関係構築するために、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか?
「外から見ると現在の状況はこうですよ」「こうした方がいいと思いますが、いかがでしょうか」と、社員だったら遠慮して言えないことを客観的にお伝えするようにしています。会社の中にいる社員の皆さんは「外にいる人からはどう見えているんだろう」と知りたいと思うんですよね。実際に彼らから壁打ちしたいというご相談が増えているため、フリーランスだからこそ気づく景色や視点、経験に基づいた回答を提供するようにしています。
― 複業、プライベート、ご家族との時間を回すために欠かせないポイントは何でしょうか?
正社員やフリーランスに関わらず、1回やった業務を仕組み化し、2回目以降は短時間でできるようにすることです。複数のやりたいことを並行するために、10時間かかった業務を次もまた10時間かけるのではなく、5時間で終わらせる、3時間で終わらせられるように、どんな論点で処理していけばいいのかを考え、1つ当たりの業務にかける工数を減らしています。毎回業務効率化を図って質の高いアウトプットをしていけば、どんなに多忙を極めても時間の切り売りにはならないですね。
※ 複業を試してみたい方や、どのスキルで複業すればいいのかを迷っている方は、以下のフォームよりお気軽に「おためし複業」へお申し込みください。
https://forms.gle/RRHnxb4o7iJMQJGe7
将来が予測困難な時代。変化へ対応するには複業ありきのキャリア形成を
― 「人生100年時代」「70歳定年退職」が謳われる昨今、今後はどのようなキャリアを積みたいとお考えですか?
私もまだ道半ばですが、キャリアに失敗しても「これをやり遂げたい」「自分の事業を作りたい」と汗水たらして頑張っている方をビジネスを通じて支援したいです。現在、2社で働く傍ら起業の準備をしていて、Well-Being(ウェルビーイング)の分野で2024年春にスモールビジネスを立ち上げようと考えていますが、試行錯誤を重ねるビジネスパーソンにこの0→1のノウハウも寄与したいですね。
― ATOMica(読み、アトミカ)では、複業の実績がある方や、これから複業に挑戦したい方がスタートアップとマッチングして新たな活躍の場を見つける「おためし複業」を始動します。どのような方に適していると思いますか?
私のようにビジネスパーソンとしての知識や経験を積み上げたいと考えている向上心のある方や、ご自分の存在価値が分からないと悩んでいる方に合っているでしょうね。一つの会社で活躍してきた方が「外の世界に出た時、自分にどんな価値があるのかが分からなくなった」なんていうこともザラにあります。さまざまな分野や職に手を付けてみて、初めて「こういうスキル・能力、経験が求められるんだ」「自分にはこういう強みがあるんだ」と実感するのではないでしょうか。
― 最後に、複業を考えていらっしゃる皆さんへメッセージをお願いします。
やっぱり複業をお勧めしたいです。これまで培った経験をもとに未知の業界・領域に踏み込むと、業務の内容や取り組み方、関係者とのコミュニケーション、ツールが異なるので大きなストレスを感じるかもしれません。その変化を受け入れて切磋琢磨する過程を経ると、世の中の変化にすばやくキャッチアップできる、価値を提供できる人材になれると考えています。まずは、三振でも良いから打席に立ってバットを振った方がいいですね。年齢を重ねると1つ1つのアクションが重くなるし、失敗も怖くなりますが、それでもバットを振る機会を掴みに行った方がいい。
それに、会社員として一つの会社に勤める生き方は、失敗するとリスクじゃないですか。この部署で失敗したら昇格できない、と。金融資産と同じように、複数のキャリアや働き方のポートフォリオを組むとリスクを分散できますよね。「ここでは失敗した」「ここでは成功した」とデコボコした経験を積んでおくと、変化する力やあらゆる業界の人脈も手に入れられて後々の人生を豊かに過ごせると信じています。
― 足苅さん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
(取材・文:佐野 桃木)
※ 複業を試してみたい方や、どのスキルで複業すればいいのかを迷っている方は、以下のフォームよりお気軽に「おためし複業」へお申し込みください。
https://forms.gle/RRHnxb4o7iJMQJGe7