八本目の槍感想(ネタバレを含みます)
この作品は、石田三成とは何者だったのか、七本槍から見た彼を描いた物語だ。石田三成が何を見つめ、何を目指したのかが巧みに表現されている。
この作品では、七本槍である加藤清正、片桐且元、福島正則、加藤嘉明、脇坂安治、糟屋武則、平野長泰から見た八本目の槍、石田三成を描いている。私はこの作品を読むまで、あまり石田三成という人物に詳しくなかった。強いて言えば、関ヶ原の戦いで徳川家康に負けた人、という程度の印象だった。しかし、この小説では石田三成は先を見通し、遙か未来を目指すことができるほどの能力の持ち主であったという描かれ方がされている。
三成(佐吉)が目指したもの
小説では、七本槍と石田三成を幼名で登場させている。ここでは私もそれに倣い、彼らを幼名で呼ぶことにする。この作品は、虎之助の語りから始まり、市松の話で幕を閉じる。彼らが見た石田三成は、常に先を見ていた。彼の夢は「武士のいない世をつくること」この言葉は、同じ今村翔吾さんの作品である、『じんかん』や『塞翁の盾』にも通じるものがあるのではないだろうか。佐吉は、戦のない世を目指し、政を民が取り仕切る世の中を、さらには国のリーダーを選挙で決めるという、まさに現代のような日本を作ろうとしていた。現代を生きる人から見れば、戦のない世の中が普通であるが、戦国時代の人々にとっては、戦を絶やすのは難しいことであり、ましてや民が政を取り仕切るなど、ありえないことだっただろう。佐吉は、その「あり得ないこと」を成し遂げようとした。彼は誰よりも先のことを見つめていたのだ。
関ヶ原
佐吉は「戦の理」というものをずっと考えていた。私には少々難しく、詳しくは理解できていないのだが、佐吉は「戦の理」を研究し続けた結果、関ヶ原の戦いに打って出た。結果は、佐吉の惨敗だった。後に、七本槍の一人である権平が「戦の理」を元に、関ヶ原の戦いについて調べている。その結果、関ヶ原の戦いは、一歩間違えば佐吉が勝っていた、徳川家康は圧勝などではなく、ギリギリのところで勝っていたのだ。この事実には、さすがの家康も驚きを隠せていなかった。
まとめ
この物語は石田三成をテーマにしているものの、彼は主人公としては描かれていない。主人公となったのは、七人槍の者たちだ。彼らから見た石田三成を描くことで、三成がどのような人物であったかを緻密に描くことは、想像以上に難しいのではないか。しかし、その難しいことをやってのけることで、読者の感動はより深いものになっていると感じる。