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能登半島スポーツ環境の現状 ~七尾和倉における復興への歩み~

能登半島は2024年元日の能登半島地震によって多くのスポーツ施設が被災。日常に存在していたスポーツ環境が失われた。能登におけるスポーツ環境の現状と復興への歩みを取材。今回は七尾和倉の現状をリポートする。


■失われたスポーツ環境

 和倉温泉はサッカーグラウンドやテニスコートなどのスポーツ施設が整備され、選手・スタッフが宿泊する旅館やホテルも充実。観光とスポーツが両立した「にぎわいの温泉街」として全国から多くのスポーツ関係者が訪れていた。ところが2024年元日の能登半島地震でスポーツ環境の一部が失われてしまった。

サッカーグラウンドから望む和倉温泉街

■サッカーグラウンド

 和倉温泉七尾市和倉温泉多目的グランド。サッカーグラウンド3面が整備され、近くの能登島グラウンドや七尾市内のサッカーグランドを使用したサッカー大会が年間を通して開催されてきた。被災した和倉グラウンドは一見すると大きな被害は無いように思えたが近づくと表面の盛り上がりや波打った箇所が複数あり、サッカーの試合利用は難しい状態。施設管理者に聞くと「大会使用の目途は立っていないが、安全に使用できる範囲もあるので、U12の練習は実施しています」とのこと。使えるスペースは狭くなったが子供たちがサッカーを楽しむ環境は確保できていた。

地震で一部が隆起したサッカーグラウンド
サッカーグラウンド横の護岸

■テニスコート

 七尾市和倉温泉運動公園テニスコート。サッカーグラウンドと道路を挟んだ向かいにある。24面のコートが整備され国際女子オープンテニスや全日本学生ソフトテニス、全日本ジュニアテニスなどが開催されている。地震でいくつかのコートが波打った状態になったが使用できるコートも複数あり、取材当日もテニスレッスンが行われていた。9月下旬には「能登和倉国際女子オープンテニス2024」が開催された。この大会は能登半島地震復興への歩みの一つとして開催。大会中はテニスコートに選手や観客の声が響いて復興への思いを感じる大会となった。

能登和倉国際女子オープンテニス2024
地震で一部が波打ったテニスコート

■スポーツ応援宿泊施設

 七尾和倉にある「One☆Day☆Fam」を取材。スポーツ競技者などが宿泊や食事で利用。サッカーグラウンドやテニスコートに隣接しており、徒歩で大会に参加できる近さだ。大会以外でも指導者や審判員の研修などで利用されてきた。ところが能登半島地震で環境は一変した。

スポーツ応援宿泊施設One⭐︎Day⭐︎Fam

■被災地支援の拠点に

 地震直後から赤十字社など全国の被災地支援組織から宿泊の問い合わせが入った。支援組織は和倉温泉での宿泊施設を探していたが確保が難しい状況にあった。One☆Day☆Famでも断水が発生。トイレもシャワーも不自由な状況。それでも「身体を休めるスペースだけでも」との依頼が多く支援組織の受け入れを決めた。One☆Day☆Famを営む宮谷政己さんは「地震発生後は何も考えられない状況だったが支援組織から沢山の電話が入り、何か行動しなければと受け入れを決めた」と話す。それからは「近くの湧き水を汲みに往復する日々が始まった」と当時の状況を話してくれた。

食堂に残る学生ボランティアからのメッセージ

■One☆Day☆Fam

 息子さんのサッカーを応援してきた中で競技者の宿泊施設が必要と一念発起。2017年春に七尾和倉でOne☆Day☆Famをオープン。沢山の競技者を受け入れてきた。地震以降は復旧作業者や支援ボランティアなどの利用者も受け入れている。

One⭐︎Day⭐︎Famを運営する宮谷政己さん

宮谷政己さんインタビュー
■地震発生時はどこに?直後の行動は?
 七尾市街に出かけていた中で地震が発生。家族全員無事でしたが外出中で情報が少なくとにかく和倉に戻ることしか考えていなかった。
■施設の被害は?
 建物は大丈夫だったがエアコンの室外機が倒れたり、室内に物が散乱するなどしていた。困ったのはやはり断水。水道は4月に復旧したが施設内での水漏れが発覚。この時はショックでした。
■全国の被災地支援組織から問い合わせがあったそうですが?
 地震の翌日から赤十字社や大阪府などの機関から多くの電話が入り、何も考えられない状況でしたが何かしなければとハッとした。
■地震後の生活は?
 被災地支援組織を受け入れてからは毎日200リットルの湧き水を汲みに、車で何回も往復する日々が始まりました。
■厳しい日々の中で心に残ったことは?
 以前から利用してくれている大阪の高校サッカー部の監督さんがペットボトル24本入りの飲料水60箱をワゴン車で運んできてくれた時はありがたかったですね。それと東京の大学生ボランティア25名が活動を終えて東京へ帰った後、食堂に行くとホワイトボードにメッセージを書き残してくれていて人の温かさを感じました。元気をもらいました。
■七尾和倉の雰囲気は?
 少しずつ旅館も営業を再開し始めてはいるものの、以前のにぎわいが戻るには時間がかかると思う。一歩ずつ進む覚悟で取り組みます。

災害支援や復旧復興に関わる方々を受け入れながら被災地の後方支援としての役割を果たしている宮谷さん。自身も被災者のひとり。それでも「慌てずに一歩一歩前に進みたい」と静かに語ってくれた。七尾和倉のスポーツ環境が復興し和倉温泉に「にぎわい」が戻る日に想いを寄せ続けたいと感じる取材となった。(取材/大田 均)

■GOSPO 2024年11月号

GOSPO 2024年11月号
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