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志賀原発 外部電源と変圧器の損傷~ニュージーランド地震で寸断されたOFケーブルは健在か?

2024年1月1日に起きた能登半島地震では、志賀原発の外部電源が失われた。原発外部の変電所と送電線の異常、さらに、原発敷地内部に8個ある変圧器のうち5個の変圧器に異常が生じ外部電源が使えなくなった。
北陸電力は、原子力規制員会に報告、マスコミの記者会見、そしてホームページ上にプレスリリースを掲載している。それらの資料を見ると、相手によって資料が少しずつ違って、とても分かりにくくなっている。
なぜ、わかりにくく説明するのだろうか?電気系統については誰も考えてもらいたくない、検証しないでくれ!と言っているようにも聞こえる。原発内部で何が起こっていたのか公表資料から整理する。


外部電源と変圧器の損傷~小出し、難解な情報提供

 能登地震によって志賀原発で何が起きたのかを世界中が注目しているが、北陸電力は情報を小出しにして、全体像が分かりにくい。
 2024年1月1日、原子力規制庁は、臨時ブリーフィングを18:30と20:30の2回行った。「変圧器の火災」「使用済み燃料の冷却が一時中断」「外部電源の切替え(19:23)」等が発表された。
2024/1/5の北陸電力のプレスリリース(第5報)では、電源についての情報がいくつか追加され、以下の図が添付されている。

2024年1月5日 プレスリリース (第5報)

 2024/1/10の第57回原子力規制委員会では、「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」が議題となり、資料が公開され、1月9日に行った北陸電力への聞き取り時の資料も含まれていた。以下は、「資料1 令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」に含まれている。

 2024年1月10日 原子力規制委員会 資料1
2024年1月10日 原子力規制員会 資料1
2024年1月12日 プレスリリース(第8報)

 1月10日に公開された原子力規制委員会の資料には、志賀中能登線(500kv)は1号線も2号線も「使用不可」と表示されているが、1月12日プレスリリース(第8報)の資料では、上図右のように志賀中能登線(500kv)2号線にバツがあるが使用不可の表示がない。
 北陸電力は、原子力規制庁に1月9日に変電所の異常を説明したが、変電所の異常はいつ確認したのか?なども公表すべきだろう。
さらに、2024/1/17のプレスリリースでは、「非常用ディーゼル発電機の故障」も明らかになった。これまで調査中の項目がいくつかあるが、その後のプレスリリースはない。
 これまでの情報を筆者がまとめると、2024/1/23現在の電源の状況は以下のようになる。外部電源で2か所、原発敷地内の変圧器等の設備で7つの障害が確認されている。

2024年1月23日現在の電気系統の損傷

原子力規制委員長の記者会見~「変圧器の耐震性は見直し不要」

 1月10日の定例記者会見で、記者が「変圧器の耐震性を高める必要があるのではないか?すべての原発を見直してバックフィットするべきではないか?」と質問した。
 これに対し、原子力規制委員長は「外部電源に基本的に期待しないのが新しい規制基準の考え方です。外部電源がすべて失われたうえでも止める、冷やす、閉じ込めるということが機能として発揮できるように多様性、多重化の確保を基本にしている。変圧器だけ耐震性を上げても外部電源が確保できる保証はないので、そこだけを強化することは今のところ考えていない」と、発電所内の電源確保は努力する必要はなく、高圧電源車と大容量電源車を用意するだけで十分だと大見えを切った。
 原発では外部電源の確保と同時に、発電所敷地内での電源確保をより安全にするための対策をとる必要があることは明白だ。損傷が多発した電気系統について、詳しく整理する。

損傷した変圧器と油漏れ

 変圧器の異常は3つの変圧器の油漏れ、2つの変圧器の放圧板の動作が報告されている。
・1号機起動変圧器 4,200L(ドラム缶21本) ~2024/1/2 16:47回収終了(約1日)
・1号機主変圧器放圧板動作
・1号機所内変圧器放圧板動作
・2号機主変圧器24,600L(ドラム缶123本) 2024/1/2 14:15~1/511:55回収終了(約3日)
・2号機励磁電源変圧器の油漏れ 100L
 これらの変圧器の油漏れについても、詳細に検討した。

☆   1号機起動変圧器(No.4 冷却器と放圧板からの油漏れ)


ホームページのプレスリリースにはない写真は、原子力規制庁の聞き取りと記者会見で配布されていた。
 1月4日に北陸電力が原子力規制庁に報告した文書(志賀原子力発電所1号機 起動変圧器の漏油量評価について)では、油は「冷却器と配管の溶接部」と「放圧板につながる導油管」の2か所からもれ、変圧器地下タンクから回収したと書かれている。写真では、No.4冷却器にも亀裂が生じているようにみえるが、説明はない。
現場写真では、床に油がたまっているが、概要図では床面より下にタンクがあり、変圧器地下タンクと表現されている。地下タンクがあふれたのか、時間とともに地下タンクに流れ込むのか、説明はない。
漏れた油の量は、コンサベーターの油量3,600Lだが、回収した量は約4,200Lで、600L多くなっている。
お知らせした内容では、「地震発生時に1号機起動変圧器の放圧板の動作したことを確認、および噴霧消火設備を手動起動した」と書かれ、その時の水が含まれていると説明している。

☆ 1号機起動変圧器 2024年1月4日 北陸電力発表
☆ 1号機起動変圧器 2024年1月4日 北陸電力発表
2024年1月4日 北陸電力発表
☆ 1号機起動変圧器 2024年1月4日 北陸電力発表
☆ 1号機起動変圧器 2024年1月4日 北陸電力発表

☆   2号機 主変圧器(No.11冷却器上部配管接続部に亀裂)


 「冷却ファンNo.11上部に設置されている冷却器と配管接続部に亀裂が生じ、当該ファンの下部に油が滴下した」と書かれている。
  北陸電力の原子力規制庁への報告を見ると、「当該変圧器の放圧板の動作及び噴霧消火設備の起動を確認した。またこれにより、自動的に予備電源変圧器へ切り替わった。噴霧消火設備の起動及び放圧板が動作した原因等は調査中であるが、油中ガス分析の結果アセチレンが検出されており、内部短絡が起きた可能性がある。なお、火災の発生は確認されていない。」となっている。
 漏れた油の量はドラム缶123本分であり、滴下して漏れたとすれば、長時間漏れ続けたいたことになり、その間対応可能だったのではないか?短時間であれば、滴下ではなく流失ではないか?現場確認しなかったか?疑問は尽きない。
1月2日の発表では、漏油量は3,500Lとなっていたが、1月4日には21,400Lと予想し、最終的には約24,600L(ドラム缶123本)となった。
 漏れた油の量は、コンサベーターの油量3,500L、冷却器配管油量1,800L、変圧器本体上部14,500Lの19,800Lだが、回収した量は約24,600L(ドラム缶123本)で、1,600L多くなっている。
 2号機主変圧器では、放圧板の動作と噴霧消化器が起動しているため、その水分のために1,600L多くなっていると説明している。
 地下タンクからの回収は、2日14:15にはじめ、ドラム缶123本の回収が終了したのは5日11:55とされ、回収に約3日かかっているが理由は示されていない。回収された油はどのように保管されているのか?PCBは含まれているのか?などは不明のままだ。

☆ 2号機 主変圧器 2024年1月4日 北陸電力発表
☆ 2号機 主変圧器 2024年1月4日 北陸電力発表

☆   2号機励磁電源変圧器(放圧弁導油管からの油漏れ)


 1月3日に、「2号機励磁電源変圧器の油漏れ」として報告された。変圧器上部に設置された放圧弁の動作により導油管を通じて排出されたもの(約100L)と推定している。

2号機 励磁電源変圧器の油漏れ

電気系統損傷のまとめ

 これまでの情報をまとめると以下の図になるが、北陸電力はこの図を提供していない。さらに、原子力規制委員会委員長の記者会見での発言から気になることがある。それは、外部電力の多重化と発電機、電源車で電源確保は十分で、原発敷地内の耐震性の向上は意味がないと言い切ったことだ。
 なぜ、発電所内の電気系統の耐震性を高めると言わないのだろうか?原発敷地内で7個の損傷・バツがついているにも関わらす、検討しないと言い切る理由は何なのか?

公表資料を基に損傷部位を表示したもの(2024年1月23日時点)

 その他の異常を隠しているかもしれないと、意地悪く推理してみた。それは、原発敷地内に敷設された「OFケーブル」の損傷だ。外部電源から4つの変圧器の間は、OFケーブルで連結されている(黄色マーク)。

 OFケーブルとは?

OFケーブル(oil filled cable 油を封入しているケーブル)とは、超高圧送電用のケーブルで、油圧を加えた絶縁油を封入したケーブルで、コンクリートの管路に入れて地中に埋設する。
 2011年2月22日に発生したニュージーランド地震で、地中に埋設されたOFケーブルが複数個所で損傷したことが報告されている。
 論文によると、「2011年2月22日、マグニチュード 6.3の地震がクライストチャーチ市を襲った。この地震により182名の死者と多数の負傷者が発生し、ライフラインの重大な中断を含む建築環境に広範な被害が発生した。この出来事により、ニュージーランドの都市では過去80年間で最大のライフラインの寸断が発生し、被害の多くはクライストチャーチ都市部の広範囲にわたる深刻な液状化によるものだった。」「地震によって引き起こされる地盤沈下の差に対するOFケーブルの脆弱性は、ORIONによって以前に分析され、潜在的なリスクとして特定されていた。」と書かれている。
 そのORION AMP (2009) AMP: Asset Management Plan によると、「副送電用の 66kV 油入りケーブルは、プラントに壊滅的な障害が発生する可能性が最も大きくなる。これらのケーブルのジョイント システムが不十分であることが判明し、より大きな座屈力に耐えられるものにジョイントを交換することを優先した。」という。

志賀原発のOFケーブル

 志賀原発でも上図の4系統でOFケーブルが使用されていたが、3系統の変圧器が損傷し、使えるのは1つの系統だけになっている。したがって、変圧器とは別にOFケーブルの損傷を確認する必要があるが、北陸電力からは発表がない。
 能登半島地震による志賀原発敷地内でも地表面に段差ができ、基礎が沈下するなどの変化が起こり、それに伴う埋設配管やコイルの破損、それに続く油漏れが複数発生した。
<地盤の変形>
・1号機防潮壁の傾き
・1号機防潮壁基礎の沈下
・高圧電源車使用箇所の段差発生
・物揚げ場舗装コンクリートの沈下
<コイルや配管の損傷>
・1号機 タービン建屋の換気空調系の冷却コイルから冷却水漏えい
・純水タンクの屋外埋設管が損傷し漏えい
・2号機励磁電源変圧器の油漏れ 100L
・1号機起動変圧器 4,200L(ドラム缶21本) ~2024/1/2 16:47回収
・2号機主変圧器24,600L(ドラム缶123本) 2024/1/2 14:15~1/511:55回収
・1/7に海面上の油膜 1/10にも海綿上に油膜 漏えい個所不明
志賀原発敷地内で、これだけの地盤の変形が起こったということは、OFケーブル損傷の可能性がある。

原発運転期間延長とOFケーブル

 一般的にOFケーブルの耐用年数は40年と言われている。原子力規制委員会が原発の運転延長を決めるにあたり、40年を超えたケーブルの安全性について独自の分析はしていない。
 健全性評価は、高経年化技術評価で実績のある「IEEE Standard for Qualifying Class 1E Equipment for Nuclear Power Generating Stations」(IEEE Std.323-1974)等のIEEE 規格、社団法人電気学会「電気学会技術報告Ⅱ部第139 号原子力発電所用電線・ケーブルの環境試験方法ならびに耐延焼性試験方法に関する推奨案」、そして、独立行政法人原子力安全基盤機構「原子力発電所のケーブル経年劣化評価ガイド」(平成26年2月)を用いて評価し、「有意な絶縁低下と判断する値となるまでの期間は、運転開始後60年以上であった」としている。
 ニュージーランド地震の教訓が、日本で生かされるように検討するべきではないか?全国の原発でOFケーブルがどれくらい使用されているのかを調査し、OFケーブルからほかのケーブルに早急に変更するべきだ。

<参考文献>
1) Lifelines performance and management following the 22 February 2011
Christchurch earthquake, New Zealand: Highlights of resilience.
https://ir.canterbury.ac.nz/server/api/core/bitstreams/cb755ab6-32d1-410c-8466-8d79c0cf4be7/content

2) ORION AMP (2009). Asset Management Plan:a 10-year management plan for Orion‟s electricity network. from 1 April 2009 to 31 March 2019.
http://www.oriongroup.co.nz/publications-and disclosures/asset-managementplan.aspx

3) Orion Annual Report (2011) retrieved from:
http://www.oriongroup.co.nz/downloads/OrionAR11_WEB.pdf

4) Orion Media releases (2010 and 2011) retrieved from
http://www.oriongroup.co.nz/news-andmedia/EQ-news-Feb2011.aspx. And the dates therein.