Mine (礼賛)

好き×好き

好きなバンドは?と聞かれたら迷い無くIndigo la Endと答えるし、好きなアーティストは?と聞かれたら迷わず川谷絵音と答える。そして、好きなお笑い芸人は?と聞かれたら、これも迷わず、ラランドと答える。大学4年間を関西で過ごし、周囲にはそれなりにお笑い好きがいたが、全く感化されなかった。そんな自分が始めてどハマりしたお笑いコンビがラランド。YouTubeでたまたま流れてきた動画を見たのがきっかけだったと思う。流行りものを茶化したり、世間に対する皮肉を巧妙なワードセンスで乱発するところにハマってしまった。ある種逆張りでお笑いを頑なに見なかった私にはぴったりだったのかもしれない。Youtubeチャンネル「ララチューン」の動画はもちろん、コントもどこか捻くれているようなところが大好きだった。そんなラランドのボケ担当であるサーヤがボーカルを、indigo la Endの川谷絵音がギターをつとめるバンド「礼賛」は好きになる要素しかないのだが、私自身も大いに捻くれているので、「川谷絵音が作詞作曲をしているわけではないので聞く意味は無い」と本気で思っていた。しかし、「ゲスの極み乙女」のライブを見に行き、ライブハウスで見る川谷絵音に大いに心を射貫かれ、早くまた川谷絵音が出るライブに行きたい…となっていたとき、礼賛のツアーが発表された。失礼な話だが、礼賛でも良いから、歌ってなくても良いから、ギターを奏でる川谷絵音を拝みたいと思い、しかしさすがに申し込むなら曲を一通り聴いてからにしよう、とSportifyで「礼賛」を検索した。最初に再生したのは"WHOOPEE"というアルバム。1曲目のイントロを聴いて、盛大に後悔した。これまでの食わず嫌いを…。


光るワードセンス、芯の通った歌声


1曲目は"TRUEMAN"という曲。間違いなく素晴らしい曲で、代表曲の1つなのだが、私を夢中にさせたのは"Mine"という曲だった。まずは歌詞。サビの冒頭は"Just do my thang"。"thang" ってなんだ?と辞書を引いてみると。"thing" と同義らしい。上智大学外国語学部卒業のラランドサーヤ、(スペイン語学科とはいえ)発音はさすがに美しく、この力強い"thang"がとにかく耳に残る。この一文自体もシンプルかつ力強く、とても勇気をもらえるし、さらにそのあとの「この世界はmine mine mine」が追い打ちをかけてくる。加えて、女性ボーカルはウィスパーボイスが流行の今、力強く芯の通ったサーヤの歌声は体の芯まで響いた。当時、夢を追いかけて会社を辞め、苦しい中努力を重ねた末にとうとうそれを叶えた職場の先輩から「おまえはもっと自分軸で物事を考えた方が良い」と口酸っぱく言われていた。独立して事務所を立ち上げ、芸人だけでなくアーティストとしても活動するサーヤと、(広義の)自営業で成功している先輩の姿が重なった。とはいっても私にすぐ会社をやめて夢を追う勇気など無く今もしがないサラリーマンをやっているわけだが、かなり「本当に自分がやりたいことは何か」「それに近づくために今必要なことは何か」について考えるようになった。タイミング良くそんな時期に、自分の目指す分野に近い仕事を任せてもらう機会があり、その思いはより強くなっている。

デジャヴ

それからしばらくたって、関東に遊びに行く機会があった。ひたちなかのROCK IN JAPAN FESTIVALに参戦するためであり、目当ては当然Indigo la Endである。ここでもたくさんのバンドや曲との出会いがあり、音楽の趣味が広がった。勤務の都合で数日余計に休みが取れたので、ついでだからと東京に数日滞在した。そこで会った高校の友人に代官山を案内してもらった時、高そうな犬を連れて歩く見るからに金持ちなマダムやジェントルマンと何人もすれ違った。そして横を歩く友人は、才能にあふれた小説家の卵だった。まさに「クリエイティブ続ける」人である。私の頭の中では自然に「未来はつまらん金持ちマダム?ボルゾイと散歩する代官山?そんなのやだ 命からがら クリエイティブ続ける Fat motherがいい」のフレーズが無限にリピートし始めていた。"Mine"を聞きながら思い浮かべていた情景と一致していて、もはやデジャヴだった。

この世界はMine

私は今、決められたことを決まられた通りにやる、という仕事をしている。クリエイティブを持ち込めるような場面はごく稀である。しかし、社会の役には確実に立っているし、それを誇りに思っている。だけでなく、続けてみて思ったことは、合理的に構築された作業をひたすら繰り返す、ある種洗練された環境の中でしか生まれない思考やアイデア、言葉は必ずあるということ。いつか必ずやりたいことをやる。そのための準備もしなくてはならない。しかしそれだけでなく、今はせっかく置かれた環境さえも「自分のモノ」にして、着実にパワーをためていこうと思っている。Just do my thang.


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