私の名前は 恋汐りんご
第2話 今日は俺が恋汐りんごだから。
みさこは笑顔を見せながら言った。
「馬場 保くんだね!今日はよろしくね!」
泣いていた汐りんも、保に全てを託すと言った。
「保さん、よろしくお願いしまる。迷惑かけてごめんなのな。」
「大丈夫だよ、汐りん。汐りんの代わりは任せて。汐りんに恥は絶対にかかせないから!」
「頼りになりまるなぁ。保さんは」
「保さんだなんて、、気軽に[たもつん]って呼んでくれていいんだよ。汐りん」
その会話を聞いていた桃子とゆずは相変わらず不安そうな顔を見せている。
「みんな、こう言っちゃなんだけど、、全然汐に似てないよ、、、。ホントに大丈夫?」
楽屋の中、もちろん保にも聞こえている。
しかし、そんな声も保はお構いなしだ。
「岩ちゃん今日のセトリ、紙に書いて見せてくれる?」もうすっかりタメ口である。
「うん、このセトリなら完璧に歌って踊れまる。ソロコーナーは、、、ないなのな?」
口調も完全に恋汐りんごになっている。
汐りん語がその証拠だ。
「はわ!衣装1着しか持って来なかったのだから、ソロコーナーがなくて、安心したなの」
「そうだよねぇ、良かったね!たもつん♩」相変わらずぐみは社交的な距離感で保に話しかけてくれている。
「はわぁー!そうなのなぁ、一応、家には[クッキンアイドル つんつんたもつん]の衣装もあるなのけど、まさかこんな事になるなんて思ってなかったから、持ってきてなかったなのなぁ」
「後はMCだね、一応今年の目標を発表してもらうから、考えといてくれるかな?」そうみさこに言われ、保は答えた。
「みんなにスタンディングオベーションしてもらうなのな!それで盛り上がるってわけ!はわぁ!」
「あっははー!そりゃいいわ!」みさこには一抹の不安すらないようだ。
楽屋にスタッフが入ってきた。
「開演5分前です!舞台袖にお願いします!」
「はわ!!!」保は先頭に立ち、楽屋を出ようとした。
その時、楽屋で待つ汐りんの方は向かずに言った。
「汐は汐だけの汐じゃないってこと、証明してみせるから。モニターで見守ってて。今日は俺が恋汐りんごだから。」
汐りん語ではない、揺るぎない、保自身の言葉だった。
舞台袖に移動した6人と岩田マネージャー。
メンバー同士、背中に張り手をして気合を入れている。
保は桃子に言った「桃、汐の背中たたいてほしいなのな!」もはや、保は自分のことを汐と呼んでいる。
桃子は「任せて!」と言いながら背中を張った。
桃子の手には、保の背中の汗が飛び散った。
桃子の顔が一瞬曇った。
「まだ足りない!ゆずぽんもお願いなのな!」
「え!ぽ、ぽんも?う、うん、分かった」
そう言って背中を張ったゆずの手には、保の背中の毛、いわゆる「せな毛」が絡みついた。
もちろんゆずの顔も曇った。
「まだまだ!みゆちぃもお願いなのな!」
「よっしゃー!汐覚悟して!」
ビターーーーン!!!
みゆちぃの張り手が強烈なのは、ファンも知るところだ。
「うぐぐぐくっ、くふっ」
保は膝から崩れ落ちそうになったが、踏ん張った。
51歳の肉体である。無理は禁物だ。
ライブに影響が出てしまう。
そうこうしていると、みさこが円陣を組み始めた。
「ツアーファイナル、全力で悔いのないようやり切ろう!ハプニングはあったけど、たもつん、、いや、汐りんがやってくれるはず!」
「任せるなのな!今日はなりたい女の子になって、1番かわいい汐の姿をみんなに見せるなのー!はわぁーー!」
会場には、おなじみのSE「BKYR」が大音量で鳴り響き、会場のファンも手拍子で応え、ボルテージは最高潮に達した。
「いくよ!バンバンバン、バンドじゃないもーーーん!!!」
第3話に続く。
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