見出し画像

要約練習 「三国志」(吉川英治版)1 桃園の誓い(上)

  1. 黄巾賊
     後漢、黄巾の乱が起きる数年前のことである。
     24、5歳の青年が、黄河のほとりで洛陽からの船を待っていた。彼の名は劉備。涿県楼桑村で、ムシロを織って売っていた。その日は稼いだ金で、母へ茶を買うつもりであった。
     なんとか高級な茶葉を手に入れることができた劉備は、近くの村で一晩休むことにした。
     夜、村を野盗が襲う。なんとか逃げ出した劉備は、乱世と己の無力さを嘆く。そして古い孔子廟の前で、黄魔(黄巾賊のこと)を追い出し、世を平和にすると誓う。
     突然、二人の大男が現れた。彼らは黄巾賊であった。黄巾賊の馬元義に脅された劉備は彼らの荷物を担いでいくことになった。

  2. 流行る童歌
     寺を見つけた馬元義たちは、ミイラのような老僧を脅し、食糧を出させようとする。しかし寺はおろか、周囲の村のすべては黄巾賊によって略奪されており、仏像さえ残っていなかった。
     去り際、老僧は劉備の顔を見て驚く。老僧は劉備を、「将来偉人になり、世を平和にする」と告げ、持っていた剣の由来を教えてくれた。
     老僧の言葉を耳にした馬元義は、劉備を仲間へ引き入れようとする。黄巾党をおこした張角のすばらしさを劉備へと説く。ちまたで流行っている「蒼天すでに死す、黄夫まさに立つべし…」という童歌は張角が流行らせたものであった。
     世に太平をもたらす黄巾党。しかし実態は、従わぬ者を容赦なく殺し、略奪をする賊と変わりなかった。
     匈奴の支援を受けた彼らは、後漢を滅ぼす計画を立てていた。
     馬元義の話を聞いた劉備は、「母の許しさえあれば」という約束で黄巾党への参加を了承する。

  3. 白芙蓉
     そこへ仲間の李朱氾がやってくる。洛陽船を襲い、村を焼き払ったのは彼らだった。李朱氾らは劉備が茶を持っていることを知り、差し出さなければ命を奪うと脅す。父の形見の剣まで差し出し、一度は拒否した劉備だったが、やむなく茶を差し出すことになってしまった。
     官の密偵ではないかと疑われた劉備は捕えられ、寺の一室に閉じ込められる。死を覚悟した劉備の前に、一本の縄がおりてきて彼を救う。助けてくれたのは、あの老僧だった。
     老僧は劉備に見事な白馬と美女を託す。美女は領主鴻家の娘で、名を芙蓉といった。芙蓉を連れた劉備は西北へと馬を走らせた。
     二人を見届けた老僧は塔から身を投げて自害した。

  4. 張飛卒
     県軍がいるという西北の河を目指し、逃げる二人。しかし李朱氾たちに追いつかれ、馬を射られてしまう。身一つで黄巾賊に立ち向かう劉備だったが、抵抗虚しく組み伏せられてしまう。
     大剣が劉備に突き刺さる寸前、張飛という巨漢が制止する。黄巾党に入ったばかりの下っ端、張飛は、李朱氾を投げ飛ばし、身分を明かす。
     張飛は鴻家の家臣であり、芙蓉を救うために黄巾党へ潜入していた。あっという間に賊を蹴散らした張飛は、劉備に茶と剣を返す。張飛の謙虚な態度に感動した劉備は、父の形見である剣を贈る。
     芙蓉を張飛に預け、二人と別れた劉備は母の待つ涿県へと帰るのであった。

  5. 桑の家
     無事に涿県楼桑村に辿り着いた劉備は、母が寝込んでいるという話を聞いて急いで家へ向かう。
     家の中は暗く、人気がない。小さな灯りを頼りに、母が一人ムシロを織っていた。家具は税の取り立てで差し押さえられ、召使は捕縛や徴兵をされ、何一つ残っていなかった。劉備は泣いて母に詫びるしかなかった。
     貴重な茶を飲もうと支度をしている際、母は劉備の腰にある剣が違っていることに気付く。事情を話すと、母は突然、高級な茶葉を河に投げ捨ててしまった。命がけで持ち帰ってきた茶葉を捨てられショックを受ける劉備。しかし母は更に泣きながら、劉備を叩いて叱る。
     劉備は由緒正しき漢帝の血筋であり、剣はその証明だった。劉備には漢を再興する使命があることを説かれ、深く反省し、いつか漢を再興させることを誓う。
     それから数年の時が流れた。劉備のもとに、山羊を連れた不思議な老人が現れる。老人は、この家から貴人が生まれると告げ、その時のためにと山羊を贈る。

  6. 橋畔風談
     ある日、ムシロを売りに行った劉備は市場に立っている立札を読む。それは黄巾賊討伐へ兵を募る高札だった。
     募兵に応じる民とは対照的に、じっと動かない劉備。その様子を見ていた大男が声をかける。
     大男と劉備は石橋へと場所を変える。初対面だと思っていた男は張飛であった。鴻家の土地を取り返すべく戦ってきたが、なかなか勝つことができず、今は山にこもって猪を狩って日銭を稼いでいるという。
     募兵に応じるつもりのない劉備に対し、張飛はその真意を問う。劉備は自分が景帝の血縁であることを明かし、いつの日か世を平定するために立ち上がるつもりであると打ち明ける。
     劉備の話に感激した張飛は、以前譲り受けた剣を返す。二人は再会を約束して別れる。

  7. 童学草舎
     劉備と別れた張飛は、この話を関羽に教えてやろうと帰路につく。しかし関門はすでに閉じていた。兵士の静止を振り切って関門を破る張飛。門には衛兵の死体が残されていた。
     関羽は小さな集落で寺子屋を営んでいた。張飛は嬉しさを分かち合いたいと思い、劉備のことを話すが、関羽は騙されているだけだと相手にしない。不貞腐れた張飛はそのまま寝てしまった。
     翌朝、自棄酒とばかりに張飛は朝から酒を飲む。酔った張飛は鶏を生きたまま引き裂いて食べる。捕吏と兵士が張飛を捕えようとしたが、逆に殺されてしまう。往来には兵士の死体が転がっていた。

  8. 三花一瓶
     劉備の家を張飛が来訪する。関羽が劉備の身分を信じてくれないため、直接関羽に会ってほしいと頼む張飛。
     母の勧めもあり、関羽に会おうと家を出ると、百人余りの兵士に取り囲まれる。張飛を追ってきた捕吏と兵士だった。一触即発の空気となったところへ、静止の声がかかる。
     駆けつけたのは武装した関羽だった。関羽は一芝居打ち、張飛を捕らえた振りをすることで兵たちを一旦退かせる。
     劉備に会った関羽は、張飛の話が嘘ではなかったことを知り、劉備と共に大志を成したいと申し出るのだった。

  9. 義盟
    翌朝、三人は桃園にて義兄弟の誓いを立てる。その後、盛大な宴を催す。
     宴の翌日、三人はさっそく兵を集めて軍隊を作ることにした。周辺への檄文は関羽が、面接は張飛が行い、あっという間に二百人余りの兵が集まった。
     しかし肝心の馬と兵器とが足りない。すると偶然、多くの馬を引き連れた商人が近くを訪れている、という情報が入る。交渉のために関羽が赴くと、商人張世平は二つ返事で馬と鉄、資金を提供してくれた。提供された鉄で武器を作り、三人の隊は故郷を出発する。
     その姿を見送る母は、しずかに涙を流し続けていた。