リモートワークを語る上でのおカネのはなし。
COVID19の影響により今年から初めてオフィス以外の場所で終日仕事をするリモートワークを経験した会社員の方は多いのではないだろうか。私もその一人である。
また、企業においても感染症対策のためだけではなく、働き方の選択肢の一つとして今後リモートワークを推進する傾向が伺える。
これからもますます拡大するであろうリモートワークが私たちに与える影響について、仕事へのモチベーションの維持や人間関係の希薄化など「定性的」な部分で多くが語られてきており、そして今後も議論の的になる事は間違いないと思われる。
しかし、まずはその前提としてリモートワークが私たちに及ぼす影響のうち「定量的」な部分、とりわけ「おカネ」の部分について納得されたうえで議論されているだろうか。
リモートワークは通勤が無くて身体的に楽だけど家の光熱費が心配であったり、会社から支給されるリモートワーク手当の妥当な金額が分からなかったり、などおカネに関して何かしらの疑問を抱えたままでリモートワーク論を展開していないだろうか。
ここでは、リモートワークを行う上で確認すべきおカネのうち「社員の経済負担」と「企業の経済負担」の2点について確認してみたい。
・社員の経済負担
リモートワークを実施するに当たり社員の経済的な負担を考えてみたい。
先ずはリモートワークを推進する上でのイニシャルコストであるが、新たなディスプレイの購入など一時的な負担はあるかもしれないが、これについては企業からの補助や元々所持していたものの活用などにより、経済的負担はさほど大きくないと思われる。
むしろ我々はこれから長期間に渡って支払っていかなければならないランニングコストの方に気を配るべきだろう。通信費用については、各家庭で既にインターネット回線は整備されていると思われるので新たな負担は無いと考える。やはりリモートワークで増えるランニングコストと言えば光熱費ではないだろうか。
そこで、私は今年の春、夏にリモートワークで在宅していた時と、出社していた時の消費電力をモニタリングしてみた。
春についてはほとんど変化がなかった。空調機器を使わないためリモートワークによる電力量消費の増加は照明(LED照明)とOA機器のみとなるがそれらの消費電力量は非常に小さいためほぼ影響はなしと考えられた。
夏については執務スペースの空調機器を稼働させる必要があるため、消費電力量は増えるがそれでも約50kwh/月の計算となり社員の経済負担は約1,250円/月であった。
リモートワークにより外食が減るだけでも十分に補える金額である。また、リモートワークを推進する各企業の手当ては概ね2,000円/月以上と発表されている。
リモートワークの執務スペースが6畳程度の広さの部屋でそれに見合った能力の空調機をお使いの方は、リモートワークを語る上で自身の経済負担については特に気にせず進めて頂きたい。
・企業の経済負担
次に企業の経済負担を考えてみたい。
リモートワークを推進する企業はリモートワーク手当の社員に約束しているが、その財源はどうするのか。ここでは社員が経済的負担を負わないで済む2,000円/月を企業が支給する想定で考える。
企業はリモートワークを推進し、リモートワーク手当を支給する際にあわせて通勤定期券の支給取り止めも行うが、それによって減る企業の負担はどの程度なのか。
私の場合、横浜市内の自宅から都内のオフィスに通うのに6ヶ月分の通勤定期代は170,410円である。これに対し通勤1回分の料金は1,898円。この状況では私の出社率が70%以下となれば会社は2,000円/月のリモートワーク手当を社員に支払っても補って余りある。
私の場合、通勤距離も長くバスも用いるため通勤費用が高額になるが、便利な場所に住み通勤費用もさほど高額でない人の場合で考えてみた場合は更に出社率が上がっても企業は交通費の実費精算で損をしない。
例)武蔵小杉から虎ノ門ヒルズに通勤した場合、6ヶ月分の通勤定期代は80,040円。通勤1回分の料金は734円。この場合の出社率は73%以下とするべき。
また、遠距離通勤を行う人は交通費の実費精算料金が高額となるため出社率は低く抑える必要がある。
例)熱海から虎ノ門ヒルズに新幹線を用いて通勤した場合、6ヶ月分の通勤定期代は525,960円。通勤1回分の料金は7,816円。この場合の出社率は48%以下とするべき。
企業はリモートワーク手当を支給するに当たり、通勤定期券の支給もあわせて廃止すれば、出勤率が70%程度であっても十分に経済負担を相殺できるので、細かい事は考えず通勤定期券の支給を廃止し、それに見合った額のリモートワーク手当という形で社員に還元して頂きたい。
ここで述べたことはリモートワークを推進する上で論じられるべきおカネのうち最下流のほんの一部分に過ぎないが、先ずはリモートワークによって従業員も企業も「損しない」という条件が確認できれば、業務効率などの「定性的」な部分を語るうえでもその議論に弾みがつくのではないだろうか。