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橈骨遠位端骨折術後のリハビリテーション効果に関する誤解を解く旅

5/31 内容を追記しました。
   引用文献リストを追加しました。


1.はじめに


「橈骨遠位端骨折術後のハンドセラピィって、自主トレよりも効果ないんでしょ?」

 ハンドセラピィに関わったことがある方なら、一度は聞いたことがあるかもしれません。

 結論から言えば、これは大きな誤解です。

 そこで今回は、橈骨遠位端骨折術後のリハビリテーション効果に関する誤解を紐解いていきたいと思います。

2.ガイドラインを見てみよう

 橈骨遠位端骨折術後のリハビリテーション効果の真偽を検証するために、まずガイドラインを見てみましょう。

 まず、Open accessとなっている橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012を参考にします。既に2017年版が発売されていますが、多くの方が同じ流れで検証できるよう2012年版にしています。

Clinical Question「外固定除去後のリハビリテーションは有効か?」
⇒ 手関節を含めた上肢のリハビリテーションは有効であり,推奨する(Grade A)

上記の通り、ガイドライン上は「有効であり、推奨する」とされています。では、なぜ「効果がない」と言われることがあるのでしょうか?

それでは、根拠とされた論文の紹介を読んでみましょう。


外固定除去後にセラピストによるリハビリテーションを行った群は,リハビリテーションを何も行っていない群と比較して,全例が治療に満足し,patient-rated wrist evaluation(PRWE)やQuick DASH(quick disability of the arm, shoulder and hand)が有意に優れていたが,握力や手関節可動域では両群で差を認めなかったという高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2).
⇒ Kay S, McMahon M, Stiller K:An advice and exercise program has some benefits over natural recovery after distal radius fracture:a randomised trial. Aust J Physiother 2008;54:253-259

 ①は、セラピストによるリハビリテーション VS 未施行群ですが、セラピスト群の方で、治療の満足度、患者立脚型評価ともに優れていたようです。しかし、握力と関節可動域には両群で差がなく、「握力と関節可動域」に関して”セラピストによる訓練は効果がない”とされています。ちなみに評価時期は、外固定後0週、3週、6週でした。


ギプス除去後に,指示されたプログラムで自己訓練だけを行った群と手関節拘縮が強いときにセラピストによるリハビリテーションも併用して行った群を比較すると,35週間後,セラピスト併用群は全例治療に満足していたが,両群とも臨床成績は改善し,握力と手関節可動域は両群間で有意差を認めなかったという高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2).
⇒ Oskarsson GV, Hjall A, Aaser P:Physiotherapy:an overestimated factor in after-treatment of fractures in the distal radius?. Arch Orthop Trauma Surg 1997;116:373-375

 ②は、自己訓練だけ施行した群 VS 手関節拘縮が強い時にセラピストを利用した群で検証していますが、セラピスト利用群で満足度が高く、臨床成績は改善しています。しかし、またもや握力と関節可動域に差を認めなかったという結果でした。これは35週間後の評価でした。


受傷後から上肢自動運動(1日3回)の指導のみを行った群と受傷後からの自動運動の指導に加えてギプス除去後に作業療法(週2回)を加えた群では,受傷後9ヵ月で両群とも臨床成績は改善し,有意差は認めなかったという高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2).
⇒ Christensen OM, Kunov A, Hansen FF et al:Occupational therapy and Colles' fractures. Int Orthop 2001;25:43-45

 ③は、自主練習 vs 作業療法ですが、受傷後9か月の臨床成績は両群とも改善しています。そして、両群に有意な差は認めていません。


ギプス除去後にセラピストの指導で自宅での手関節自動運動のみを行った群とセラピストによるリハビリテーション(6週間)を併用した群では,ギプス除去後24週で臨床成績に差は認めなかったという高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2).
⇒ Maciel JS, Taylor NF, McIlveen C:A randomised clinical trial of activityfocussed physiotherapy on patients with distal radius fractures. Arch Orthop Trauma Surg 2005;125:515-520

 ④は、セラピスト指導の自主練のみ vs セラピストによるリハビリを併用した群 の比較ですが、外固定除去後24週には両群で臨床成績の差を認めませんでした


スプリント固定後に,医師が指導した自宅運動療法(1日2回)を行った群は,セラピストによるリハビリテーション(1回20〜30分間,計12回)を行った群と比較して,6週間の時点で握力や手関節屈伸可動域がよかったとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2).
⇒ Krischak GD, Krasteva A, Schneider F et al:Physiotherapy after volar plating of wrist fractures is effective using a home exercise program. Arch Phys Med Rehabil 2009;90:537-544

 ⑤は、医師指導の自主練習群 vs セラピストによるリハビリ群 の比較ですが、これは6週後の評価で、握力、手関節屈伸可動域が自主練習群で高かったことが示されています。

まとめると、以下のようになります。

ガイドライン2012において「外固定除去後にセラピストによるリハビリテーションは有効である」という仮説を立てたにも関わらず、ROM、握力に関して棄却され、論文⑤では自主練習で成績が上回りました。

それが「橈骨遠位端骨折術後のハンドセラピィって、自主トレよりも効果ないんでしょ?」につながっているわけですね。

では、それをひっくり返してみましょう。

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