CROTを使用した妄想物語 〜夏野花美のOTアプローチ編〜

作者 (P.N) ゆーきゃんさん

少しでもCROTを知ってもらうために、妄想によって生まれた新たな物語を作りました。
この物語はフィクションであり、実在する人物等は存在しません。それらをご理解いただき、読んでいただければありがたいです。

CROT情報(選ばれたカード)
年齢 :65歳
性別 :女性
疾患名:左大腿骨頸部骨折(外来通院)
性格 :リアリスト(現実にできることを追求するタイプ)
問題点:家族との対立(自己中心的なプランとなり他者の意見や環境を考慮せず対立)
心理 :確信が高い(何が正義で悪かを決め、問題解決することで肯定的な変化を確信している)
習慣 :休息三昧(できるだけ仕事が発生しないように休みに全力で、のんびりとした生活を組む)
環境 :要求が多い(生活内に様々な義務的作業が多く、要求に対応しないと生活維持が困難)

夕焼けの日差しが、リハビリ室から消えかかるころ、夏野花美は悩んでいた。
夏:「OTRとして働き始めてもう3年目か。先輩たちにいろいろと教わりながら、ようやく自分でも少しはROM(訓練)とか、筋力訓練、ADL訓練も大体介助の仕方もわかってきたな。けど、本当にこれでOTRとしていいのかなぁ。なんか、リハビリとしてやることはわかっているけど、作業っていうわりに、結局ADLや手のことしかやってないな・・・」
浜:『どうしたんだ夏野!独り言が廊下の外まで聞こえてるぞ(笑)』
夏:「あっ聞こえてました(笑)。浜辺先輩~!実は、最近OTってなんなんだろうなと思ってて。この間も、左大腿骨頸部骨折のオペ後の女性をずっと担当したんですけど、まだ痛みも残ってて、家に帰ってからも家事があまりできていないって話している人がいるんですよね。」
浜:『フーン。なるほどな。』
夏:「私は、動きもそこそこよくなってきたし、筋力もついてきているから、家事も出来るとは思うんですけど、どうもそこから進まないというか・・・」
 浜:『そーなんだ。』
 夏:「先輩はこんなときどうしてますか?」
 浜:『そーだなぁ・・・。そーいえばこの間行った勉強会で面白ことやっていたな。』
 夏:「えーどんなことですか?新しい手技でも学んできたんですか?」
 浜:『おまえなぁ。勉強会のすべてが手技を学びに行くところだと思ったら大間違いだぞ』 
 夏:「てへ。」
 浜:『まぁそれはさておき、夏野!おまえはその人と面接したか?』
 夏:「面接ですか?整形疾患の人ですし、面接なんて精神科の実習以来してませんよ(笑)」
 浜:『ちょいちょいちょい!・・・ゴホン・・・そっかぁ。じゃひとまず面接をしてみよう!』
 夏:「面接ですか?(先輩って本当は昭和の人?)」
 浜:『そうだよ。面接は大事だぞー!じゃ今度その人が来た時には俺も一緒に入って面接見せてやろう』
 夏:「えーありがとうございます。それは助かります!浜辺先輩、よろしくお願いします。」

 そして数日後、週2回外来通院をしている直実さん(仮)が、通院してきた。

 夏:「直実さん!こんにちは」
 直:「こんにちは。夏野さんはいつも元気そうでいいね。」
 夏:「えーそうですか?なんか照れますね。」
 浜:『いや!褒めてないから!』
 夏:「ついつい。あっそうそう、直実さん!今日は、私の先輩も一緒に参加することになっているんですけど良いですか?」
 浜:『浜辺といいます。今日はよろしくお願いします。』
 直:「こちらこそよろしく。あら、ずいぶんと日に焼けているわね。」
 浜:『そうなんですよ!じつは先日、走水まで行って潮干狩りしてきたんです。』
 直:「あーそれはいいわね。私も昔は休日となれば潮干狩りしていたわね。思い出すわぁ」
 浜:『今もまだ結構取れるんですよ』
 直:「そうなの。私も久しぶりに行ってみたいけど、これじゃねー」
 浜:『左足のことを気にされてるんですね・・・。実は、今日直実さんとお話しをさせていただきたくて、一緒に参加させてもらっているんですが、良ければ少しこれまでの経緯などについて、お話など聞かせてもらいたいのですが、よろしいですか?』
 直:「えー。私の話を聞きたいんですか?」
 浜:『はい。ぜひ!』
 直:「じゃ少しだけ・・・。」
浜:『あちらの椅子にどうぞ』
 夏:「(先輩、話の持って生き方がめっちゃスムーズで、バリうま)あっ私も一緒にお願いします!」
 
 直実は、杖歩行にて面接室に入った。浜辺は直実のこれまでのライフストーリについて尋ねた。

 直:「私が子供のころは、男子に混ざってよく遊んでたせいか、よくケンカばかりしてましたね。気が付けばおもちゃの取り合いになったりして。ズルをする男の子がいると、許せないタイプで。小学校の頃は、そろばんに通っていたので、授業でよく出てた百ます計算?ってあるでしょ?あれなんか私は得意だったのよね。いつもクラスで一番だったな。あとは、夏休みに家族とよく海に行ってたかな。まぁ私はあまり運動が得意ではなかったけど、海に行って遊ぶのは好きだったのよね。それこそ、潮干狩りも行ったり、走水や海の公園?なんてのも出来てからは行ったり、千葉のほうまで行ったこともあったわね。」
 浜:『なるほど。その頃から、海に行ったり、潮干狩りなんかもしていらしたんですね。高校ではどうでしたか?』
 直:「はい。高校には商業高校に行きました。中学の時、数学が得意だったので。そこで簿記2級とか資格を取って、高卒で就職をしました。会社からは『若くて即戦力が入ったぞ』なんて言われてましたね。フフフフ。」
 浜:『そーだったんですね。すごく期待されていたんですね』
 直:「そうなの。それでね、その後はずっと仕事人間でねー。休みの日も仕事ばかりしていたんですが、30歳になってそろそろ結婚を意識し始めて、35歳でようやくできたんですよ!」
 浜:『それはおめでとうございます。旦那様はおいくつなんですか?』
 直:「それが、5つも年下の30歳だったの(笑)。」
 浜:『年下の男じゃないですか!』
 直:「あらよく知ってるわね!」
 夏:「(なんだろう・・・全然わからないけどすごく盛り上がっているし楽しそう。てか浜辺先輩は、やっぱり昭和の・・・・)」
 直:「それでね、旦那とはよく休日に旅行に行くようになって、それこそ海なんかも行くのよね。」
 浜:『いいですね。プライベートも仕事も充実って感じじゃないですか』
 直:「そう思いたいところだったんだけど、年下だから家のことは私が主にすることになっていて、あの人はもう家事なんてほんとなんもできなくて困ったわ。」
 浜:『そうだったんですね。』
 直:「そうなの。ちょっとしたことでケンカもあったけど、その時は仲良くやっていたわね。」
 浜:『そのときは?・・・というと、そこから何か変化があったんですか?』
 直:「実はね、そこから何年かして娘が生まれたの。」
 浜:『おめでとうございます』
 直:「この子もね、そりゃかわいい子に育ったんだけど、勉強してほしくて色々学習塾や、くもんなんかにも通わせてね。勉強ができたんだけど、高校に行きはじめたあたりから、あゆ?にはまっちゃってもう大変だったのよ」
 浜:『浜崎あゆみさんですね?』
 直:「そうそう。爪とかまつげとかすごいのよ。そして勉強もしなくなったからケンカばっかりで大変でね。」
 浜:『・・・。それで、そのあとはどうなったんですか?』
 直:「なんだかんだ言いながらも、結局大学に行ったから、楽にはなったわね。けど、突然アメリカ人と駆け落ちしっちゃって、『私もう日本には戻らない!』なんて言って出て行ったのよね。びっくりするでしょ?」
 浜:『えー!すごいですね!何ですか!そんなドラマみたいな話あるんですか?』
直:「そうなのよ。私も昔のドラマを思い出しちゃって。でね、そうは言っても止めることもできなかったわ。ちょっとうらやましいという思いもあったのかもね。それで、私は私で仕事に集中しようと思いどうにか、経理課の課長にまで上り詰めたんだけど、60歳になって定年退職したのよね。そこで、これからは、楽しい第二の人生を歩もうと思って旅行したり、手芸なんかをしようかなと思っていたのよね。けど、ちょうど2,3年前に家族で草津温泉に行った帰りに、駐車場の縁石で転んじゃって、このありさまよね。もう本当にがっかりだわ。」
 浜:『そうだったんですね。色々なお話ありがとうございます。
 直:「なんだか、つい色々としゃべっちゃったわ。不思議ね。話しやすかったわ」
 夏:「(今まで私と関わっていた直実さんとの印象が全然違う・・・)」
 浜:『そうなんですね。・・・では、最近は何か困っていることはないですか?』
 直:「そうねぇ・・・。やっぱり家事かしらね。ほら、旦那は家事なんてしたことないから、私がすべてやらなければいけないのだけど、どうも、私がこんなだからね。骨折して入院した時は、娘も心配になって帰国してくれたの。骨も折ってみるもんよね。それで、家のことも少しは手伝ってくれていたんだけど、退院して少しは私もできるようになったから、娘もアメリカに帰ったの。けど、そこからどうも上手くできなくてね。」
 浜:『なるほど。』
 直:「どうにかできることはあるけど、まだ少し痛みはあるし、旦那も家にいることがあるから、家事をお願いしているの。けど、洗濯物のたたみ方とか、本当にひどくって、どうしたらそんなぐちゃぐちゃになるのかわからないのよね。そんなことで、旦那とはケンカばかりしてるわ。」
 浜:『なるほどね。』
 直:「どーしてあんなに不器用なのかしらね」
 浜:『まぁ家事をやってこなかった男性というのは皆さん苦手ですからね。難しいんでしょうね。』
 直:「けど、あれはいくらなんでもひどいわ。私がこんな感じでなければやるのに、どうしてもこの左足がうまく動かせないし、痛みもあるから・・・」
 浜:『直実さんは、本当は家事を自分でやってみたいんですね。わかりました。ありがとうございます。そうしましたら今後は、洗濯動作について実際に確認していきましょう。』
 直:「リハビリってそんなこともするの?足のリハビリは?」
 浜:『もちろんそれも必要です。ですが、それ以上に今は直実さんの、洗濯物で困っているところを解決していくことも大事なリハビリだと思うんですよね』
 直:「・・・なるほど、そうね。」
 浜:『なので、次回来ていただいたときに、洗濯動作を見せてもらってよいでしょうか?』
 直:「ええ。じゃお願いしようかしら」
 浜:『ありがとうございます。私とはここで終了です。今日はこのあと夏野がしっかり筋トレ?するのかな?やってくれると思いますので!それでいいのか?』
 夏:「あーはい!そ、そうですね。」
 浜:『では、また次回みさせてくださいね。』
 直:「ありがとうございました。」
 夏:「では、直実さん!いつもの筋トレ行きますよ!!」 

 リハビリ業務終了後、夏野は浜辺にあいさつしに行った。

 夏:「浜辺先輩!!今日はありがとうございました。」
 浜:『あーいいって。で、その後直実さんどうだった?』
 夏:「はい。もうめっちゃ頑張ってましたね。楽しかったって言ってました。」
 浜:『ふーん。それはよかったね。で、問題はここから何だけど。』
 夏:「洗濯動作を見ればいいんですよね」
 浜:『まぁそれはもちろん確認するんだけど、これまでの振り返りをしてみようか』
 夏:「振り返りですか?」
 浜:『そうそう。まず、直実さんのこれまでのことを一緒に聞いてきて、どう思った?』
 夏:「どう・・・。うーん。まぁ困っているのは洗濯の時に少し痛みがあるとかですか?それで旦那さんに頼っているけど、なんかうまくいってないというか・・・。」
 浜:『まぁ確かにそれもあるな。では、それは痛みがあるからなのか?』
 夏:「と思うんですが・・・。」
 浜:『もちろん痛みがあるからというのもある。しかし、問題はそれだけではなくて、直実さんて、意外といろんな人とけんかしてたって話が多くなかった?』
 夏:「そう言われてみればそうですね。」
 浜:『おそらくだけど、自分の方法が、人には中々うまく伝えられないのか、もしくはできないことが気になってしまう性格なのかもしれないね。』
 夏:「ほーほー。」
 浜:『例えば洗濯物のたたみ方一つでも、おそらく決まったたたみ方や服の特徴によってやり方を変えていたり、細かく決まりごとがあるかもしれないんだよね。それに対して、ほとんど家事をしてこなった旦那さんはそういうのを細かくできる人なのかな?』
 夏:「確かに、これまでもずっと家事をしてこなかった旦那さんに、いきなりそんな細かく言われても困りますよね。」
 浜:『夏野だっていきなり、やったことほとんどない面接を『やれっ』て言われたら、めっちゃ困るだろう?』
 夏:「確かに(笑)」
 浜:『この場合、考えるポイントは4つあるのさ。①夫婦間の関係がどうして悪くなっているか、②家事をこれまでしてこなかった旦那さんがやらないといけないという現実があること、③②によって、しっかりした直実さんの指摘が、旦那さんがストレスを抱えているかもしれないこと、④直実さんは、痛みがあるという理由で、家事をほとんど旦那さんにお願いしていること、だな。』
 夏:「おー!!!確かに、一見痛みがあるから、痛みが取れれば自分でやりたいという話もしていたけど、一向に痛みが治まっていないから、旦那さんにお願いする部分が増えている現実があって、けどそのやり方は、直実さんのやってほしいことと食い違っているから、旦那さんとの衝突が起きている。」
 浜:『その通り。つまり、痛みを軽減していくことも大事だけど、どうやって旦那さんがストレスが少なく、家事を手伝ってもらえる環境づくりをするかがポイントってことさ』
 夏:「なるほどー!」
 浜:『そのためにはどうしたらいいのかね?』
 夏:「うーん。難しい・・・。」
 浜:『では、MOHOの理論で考えてみよう!!』
 夏:「げ!MOHO・・・もっと難しい・・・。」
 浜:『ここにMOHOを簡単にまとめてくれた、烏帽子岩子先生の模式図があるから、これを使ってまずは簡単に当てはめてみよう』
 夏:「はい。」
 浜:『直実さんの家での役割は家事を行うことだけど、遂行機能としては、数分ならば杖なしで立位で居続けることが出来るけど持続しない、意欲はあるけど、痛みを理由に旦那さんに依頼してしまい、環境調整したはずの旦那さんのやり方に不満があって、やや問題があるよね。』
 夏:「はい。」
 浜:『そこで、習慣化を見てみると、本来は直実さんが習慣として行っていた家事を、いきなり旦那さんがそれを担うことになっている。』
 夏:「はい。」
 浜:『つまり、この習慣化されていたことが、欠けている部分であるのと、旦那さんが行っているという環境設定、特に旦那さんが行う家事の課題難易度の設定に問題があるのかもしれないよね』
 夏:「・・・はい。・・・あっ」
 浜:『お!なんか気が付いた?』
 夏:「つまり、どうやって旦那さんの負担を減らしながらも、直実さんに家事の一部ができることがないかを探ればいいってことですか?」
 浜:『おー気が付いてきたね!その通り。つまり、旦那さんとの共同作業や、難易度や求めていることを下げてあげることで、旦那さんも家事をやってもらえるようになるかもしれないし、直実さん自身もできる範囲で行えるように、座ってやるとか、家事を習慣付けられる環境を整えることで、これまでの生活に戻っていく兆しが見えてくると思うんだよね』
 夏:「おーなるほどー!ということは、直実さんには、普段どうやって洗濯物のたたみ方をしているのかとか、立ってどこまで来そうなのかを知れば、それを旦那さんに分かりやすく説明するための、取説を作成したり、どこら辺を妥協できるのかを教えてもらったりすれば、旦那さんもストレスが減って、家事を継続して手伝ってくれるかもしれない、ということですか?」
 浜:『そうそう。そういうことだよ。いいねぇ!』
 夏:「すごーい!MOHOとかよくわからないけど、なんかすごくつながっている感じがする」
 浜:『つまり、それらを観ることで、家族関係も安定するから、より共同作業が増えて円満にもなるし、直実さんも家事ができることが増えるということは、体を動かすから筋トレにもなってるかもしれないな。』
 夏:「なるほど。どうりで自主トレをお願いしてたけど、あまりやってくれてるかんじしなかったんだよな。そもそも活動量が少ないから、筋力も上がってなかったのかもな。」
 浜:『まぁそこまでは実際わからないけど、そういうこともあるかもしれないな。』
 夏:「よーし、次会うときが楽しみになってきたぞー」
 浜:『(少しは、ボヤキの解決にもつながったかな・・・)』
 夏:「なんか、これって作業療法っぽいですね!」
 浜:『おーそうだな!!!』

 かくして、夏野と浜辺は、直実の洗濯動作の観察から、どのようなこだわりや、期待することと妥協できることが何かを探っていった。そして、旦那との共同作業が出来るような活動へと移行し、1か月後には痛みもほとんど無く、家事動作がほとんどできるようになった。しかし、家事動作は旦那とのスキンシップが増えたため、あえてすべて家事を元の役割として戻すのではなく、旦那と一緒に行うという新たな役割を付加価値とし、痛みがなくなってからも2人で継続して行っていったのであった。

おしまい

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