2023/2/11
上司
わたしがあなたのことを好きになっても、ただ時間が過ぎ去るのを待たなければならないことを分かっているので、ほんとうはこんな気持ちになんかなりたくないのです。
あなたの話っていつも難しくて、1回じゃ理解できない。そういえば、わたしは昔から学校の先生の話とか聞くの苦手だったって、あなたのせいで思い出したのよ。ほかの子は、せっせとノートを取ったり、手を挙げて質問をしたり、黒板に答えをスラスラ。よくそんなに、すぐに反応が出来るなあって感心してしまう。そのあいだ、わたしは机に突っ伏して眠っている。「震度5!」って言いながら、数学の先生がわたしの机をガタガタ揺らす。クラスで1番カッコいい野球場の彼(ベジータに似ている)はもっと熟睡していて、金縛りにあっている。わたしたちはいつも眠っていた。
わたしだけに向けられた、あなたの声を聞いてみたい。あなたは、わたしの目を見るの。わたしも、あなたの目を見るの。そうしたら、わたしは口に出す言葉と、あたまのなかで話す言葉が、ズレていくのだと思う。届いて!届いて!って。そのときわたしは、目の奥に湖をつくるの。水分の気配だけでは駄目。わたししか知らない湖をつくる。そういう目にしてみせる技、わたし知っているのよ。きっと、ふだんより魅力的にみせられると思う。実際わりと、成功してきたんだから。生きてきたなかで、たくさん練習しているんだから。たしかめてほしい。かわいいなって、思ってほしいに決まっている。
ああ!もう、考えるのが嫌になってきたからお酒たくさん飲みたい。けど、だめなのよ。きのう、恵比寿で終電が無くなってしまって、ひとりで朝まで居酒屋にいた。暇だから、村上春樹の「羊をめぐる冒険」を読んだ。むかし読んで、よく分からなくて途中でやめてしまったけれど、改めて読んだらおもろかったんよ。まえはどの辺りからつまらなかったんだっけ?忘れた。この本のなかにも、いま書いてるような、だらだらと冗長な内容の手紙が出てくる。わたしの好きな小節って、そういう場面がよく出てくるの。わたしそういうのが好きみたい。わたしそういうのが好きみたい。
あなたの好きなものについては、ひとつも知らないの。なにが好きなのかは何となく分かっていても、どうしてそれがあなたという命に密接し始めてしまったのかが、もっと詳しく知りたいわけ。もちろん、そんな聞きかたはしないけれど。そんな日が来るといいなって思うけれど、もし来なくたって、あなただけを思ったこの夜はほんとうにあったのです。
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