離任式のお手紙と、文字で表現できない思い。
昨日、娘の小学校で離任式があった。生徒数が多い学校なので、離任される先生は10名以上。
その中に、この一年、娘の担任をしてくれたM先生もいた。
娘は、ちょうど1年前に小学校に入学した。
初めての学校生活。娘にとっては刺激が多く、毎日通うのは大変だったようで、ときどき欠席することもあった。
親には見えない苦労やモヤモヤした気持ちが、きっとあったのだと思う。
そんな日々を支えてくれたM先生が離任されると聞き、娘が「手紙を書きたい」と言った。
ずっと大切に引き出しにしまっていた、お気に入りの便箋と封筒を持ってきて、M先生との思い出を話しながら書き始めた。
「お母さんあのね。M先生、休んだ次の日に登校したら、おはよう、来れたねって言ってくれるんだよ」
「M先生がさ、書き取りノートに漢字名人のスタンプ押してくれたの。あれ、娘ちゃんの大事」
M先生との思い出話に花が咲く。いい時間を過ごさせてもらったなぁ。しみじみ思う。
一通り話し終えた後、1分もかからず書き終えた手紙を見せてくれた。
…ん?
あれ、たくさん思い出があるはずなのに、たったこれだけ?と、思ってしまった。大好きなM先生への、最後の手紙がこの内容で、後悔しないのだろうか。
「ねえ、これだけでいいの?便箋、いっぱいあるから、使っていいんだよ」と、声をかけた。M先生に思いを伝える最後のチャンス。無駄にしてほしくなかった。
娘は、私の声かけに一瞬驚き、黙ってしまった。
数秒の沈黙の後、泣き出した娘を見て、「あぁ、またやらかした。要らぬおせっかいだった」と後悔した。
おろおろしている私に、娘が「本当はね、寂しいから手紙書きたくない」と教えてくれた。寂しくて、文字にしたくなかったらしい。
私は、文字には人の心を動かすパワーがあると思っている。
言葉にできない思いは、手紙やメール、LINEで文字にして伝えてきた経験から、「文字は万能のツール」だとさえ思っていた。
でも、そうじゃないのかもしれない。
目に見える「文字」だけが、全てじゃないということを、娘が教えてくれた。
娘はひとしきり泣いた後、新しい便箋を取り出して、「M先生へ。さみしいです。またあいたいです。」と書き始めていた。
M先生はきっと、手紙に書いてある文字も、書かれていない思いも、受け取ってくれるのだろう。