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【二次創作】金平糖が見せる夢

 今年になってからものすごくハマった『天堂家物語』という漫画の二次創作を書いてみました。
 秋ピリカに応募しようかと思ったんですが、文字数やテーマその他ありましてやめた内容です。
 元の漫画を知ってる方が読んでも楽しめるかまったく保証できません!(オイ)

 漫画の舞台は明治末期か大正のころ。田舎娘とツンデレイケメンとのラブコメディ。よくある設定かもしれませんが主人公の女の子が運動神経はいいけどどアホな子でよいです。二人の両片思いがじれったいのよー。(13巻で両思い!やったー♡作品はまだ続いてます)

以下🦑小説は1800字くらいです。




 さらさらと雨音が聞こえる。雨に浸った薔薇の棘が、柔らかく指を刺すところを想像する。ちくっとした甘い痛み。

 カサリ。

 ぼんやりと目を開ける。どうやら長椅子に横になっているようだ。薄暗い室内にランプがひとつ。陰影にいろどられた人物が浮かび上がる。その横顔が本のページをカサリとめくった。

ー 気がついたか?

 涼しげな眼差しがきらっとこちらを捉えた。その目をどこかで見たことがある。


🥀


 母方の祖父が育った屋敷が文化財として寄贈されることになり、母と私は初めてその屋敷に訪れた。
 祖父はいわゆる身分違いの恋をして、周囲の反対を押し切って祖母と結婚したのだという。
 頭は切れるが冷淡で人を寄せ付けなかった祖父が、野生児のような田舎娘の祖母に出会い、周りが驚くほど穏やかな人間になったいう。
 一人娘(私の母)が生まれた直後に出征し戻ってくることはなかった。戦後、気丈に生き抜いた祖母も私が生まれる前に亡くなっている。


 「いやー、本当に血は争えないなあ」

 祖父の従兄弟にあたるという大叔父が杖をついて屋敷の門に現れた。和服に中折れ帽、帽子の下からオカッパらしき白髪がのぞいている。

 今日は屋敷を引き渡すにあたり、市の担当者との確認に立ち会うことになっていた。大叔父は老人ホームに入居していて屋敷に住んでる者はもういない。この屋敷に関わる親族が、もはや大叔父と母と私だけなのだという。

 「サクラさんは雅人兄さんによく似てるし、お嬢ちゃんは蘭さん本人かと思ったよ」

 大叔父が屈託なく笑う。母の整った顔立ちは祖父譲りらしい。一方、たぬき顔の私は祖母によく似ているそうだ。だが私は祖父母に会ったことはない。白黒写真でしか二人を知らないのだ。

 「お嬢ちゃん何年生?もしかして空手とか柔道とかやってる?」

 初対面の親族にお嬢ちゃんと呼ばれて居心地が悪い。

 「中二です。リンボーダンス研究会に入ってます」

 大叔父は「へっ?」と真顔になってから「そりゃあいい」とまた愉快そうに笑った。
 「蘭さんにはよく投げ飛ばされたもんだよ。きみのお祖母ちゃんは本当に強い人だったから」「そっかー、リンボーダンス……」とまた声を出さずに笑った。


 市の担当者がやってきて大叔父たちと屋敷内を見て回る。

 「そこの洋室、雅人兄さんが使ってた部屋だよ。ゆっくり見ていくといい」大叔父はある一室を指さすと、別の部屋へ行ってしまった。母と私で静かにノブを回す。

 窓を背景に大きな机。手前にはバラ模様のゴブラン織のソファ。

 ここに祖父がいたのだと思うと不思議な感じがする。母は感に耐えないといったふうに涙ぐんでいた。

 そのとき。微かに。

 ことん

 机から音がした。

 私たちは不思議に思いそっと机の中央の引き出しを開けてみた。コロコロと小さな薄茶色の塊がひとつと、折り目が茶色く変色した袋状の紙が出てきた。どうやらこの薄茶色の塊を包んでいた懐紙のようだ。

 母が息を呑む。
 「金平糖!」
 「こんぺいとう?」
 「そう、お祖母ちゃんが女中さんをしてたとき、まだ学生だったお祖父ちゃんがよく金平糖をくれたそうよ。それがきっかけで恋仲になったんですって」
 やあねえと言いつつ目に涙を浮かべている。

 「戦争のあと女手ひとつですごく苦労したから。母さん、その頃が一番幸せだったのかもしれないわね」

 時間とともにトゲトゲが失せ、薄茶色に変色した塊を、これまた茶色く変色した懐紙にそっと包んで持ち帰った。

 懐紙は全体に茶色いしみがポツポツついているが、元は小花が散らされた可愛らしいものだった。これに金平糖を包んだ祖父。どれほど祖母を愛おしく思ってたんだろう。


🥀

 その夜不思議な夢を見た。

ー 気がついたか?

 私はバラ模様のゴブラン織のソファに横になっている。外は静かな雨。

ー え?お、お祖父ちゃん……?

 ランプの陰影の中から男性がつかつかと近寄ってきて、寝ている私の口元を片手でぎゅうっと挟んだ。唇がヒヨコかタコみたいになる。

ー 誰がジジイだ?あ?

 ランプに照らされた端正な顔立ちは母そっくりだ。言葉とは裏腹に楽しそうに笑みを浮かべる。が、すぐに眉根を寄せた。

ー お前、誰だ?蘭…じゃないのか?

ー え、えーと、たぶん、孫です。スミレといいます。


 若い祖父は目を見開いて唖然としていたが、何かを悟ったようにふっと笑った。

ー そうか、そういうことか……。ならば、お前は体術を学ぶといい。蘭にそっくりだからきっと筋がいいだろう。


「だから〜リンボーダンスなんだってばあ!」

自分の声で目が覚めた。
祖父はかつてあの部屋にいて祖母と恋をして。
ふふふ。そしていま私がいる。


おわり


最後まで読んで下さった方、たいしてときめかない妄想ですみません💦
ありがとうございました。


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