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【ショートショート】マンゴーなわたしたち

 今年の夏休み、マンゴーを食べたらお腹がしくしくして初めて生理が来た。桃より濃厚な香りと口当たり。

 それ以来、不思議な勘が働くようになった。塾でも学校でも誰かがページをめくるたびにピンとくる。ページをめくるカサリ、ペリという音で、その子が生理中とかイライラしてるとかがわかる。紙質と、指先から出るホルモンが化学反応でも起こすのだろうか。


 「おーい明美、英語のワーク写させて」

 朝練を終え、ヘラヘラ笑いながら紙パックのジュースを飲んでる男子が私の席に来る。小学校が同じ浜崎、通称ハマジ。お調子者で笑うと細い目が糸みたいになる。サラサラだった髪の毛は今では野球部の丸刈りだ。

 「また?」
 あきれ顔でワークブックをしぶしぶ渡す。「ジュース5本おごりね」
 「えーぼったくりかよ。なーエリカさん」

 ハマジは私の隣にいるエリカに話を振る。エリカはジュース片手にスマホをいじっている。エリカのお気に入りはマンゴージュース。
 中学に入り、学校でジュースが買えることに私たちは歓喜した。

 エリカは別の小学校出身で、同じクラス、同じテニス部つながりで仲良くなった。可愛い顔をしてるが大人びている。この夏は一緒にお祭りに行ったし韓流アイドルショップにも出かけた。どこに行っても男が声をかけてくるがエリカはやんわり無視する。
 「チャラチャラした奴ばっかじゃん」とエリカは言う。そんなエリカはかっこいいし自分が親友であることが誇らしい。



 ハマジは私の前の席に後ろ向きに腰かけ、私の机でワークを写し始めた。頭から汗とお日様の匂いがする。

 「自分の席でやってよ」

 私が文句を言うとエリカが私のワークを指さした。

 「ここ違う、三人称だからdoes だよ」
 「じゃエリカさんのも見せて」
 ハマジが調子に乗る。エリカのワークを広げるとさらに机がいっぱいになった。

 先生が来た。皆バタバタと席に着く。
 「これ借りてくな」
 ハマジはエリカのワークブックを抱え、紙パックのストローをくわえて自分の席に戻ろうとした。

 「それあたしの!」
 「え?あ!」

 ハマジがくわえてたのはエリカのジュースだった。ハマジは真っ赤になって慌てふためき「ごめん」もそこそこに席に戻っていく。
 そのあとエリカはハマジが口にしたマンゴージュースを平然と飲み干した。窓際の席からそれを見ていたハマジはギョッとしてさらに顔を赤らめた。



「次、浜崎。教科書読んで」

 3時間目の英語の時間。先生に当てられハマジが慌てて立ち上がる。バタバタと教科書を開き、カサリと目的のページにたどり着く。

 その音に、不器用な指が優しく紙をめくるその音に、体の中心にズクンと衝撃が走った。

 ハマジは恋をしている。その相手は間違いなくエリカだ。じゃあ自分のこの動揺は何?


 隣のエリカを盗み見る。マンゴーのような頬の曲線。

「なに?」
「ううんなんでもない」

 ハマジ、あんたも私もきっと苦しい恋になる。(1,200文字)



まさかと思われるかも知れませんが秋ピリカグランプリに応募します。
テーマは「紙」。
青春小説を考えてたらなぜかマンゴーが前面に💦(すいませんすいません)

よろしくお願いします。


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