エリクソン研究会記録『ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー』P230L10~P236 第33回

※本記事はめんたねにて2013年3月〜2017年6月まで行われたエリクソン研究会のメモ書きを文字起こししたものです。テキストは『ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー』を使用しました。メモ書きなのでテキストを読んだ前提でないと、わからない書き方になっていることにご注意ください。
また、エリクソン研究会では現在別のテキストの『2月の男』を読んでいます。
http://mentane.net/workshop/pg167.html

P=ページ数 L=行数
読んだページ数P230L10~P236

P228L9
「潮が満ちては引いていくようすを見せました~」
この言葉の明確な意図は不明だが、以下のことは考えられる。

①静けさ/激しさの対比
こうした両極端の提示は催眠ではよく使われる手法だ。相手が勝手に意味を読み込んでくれやすい。移り変わりや、動きと行った変化のイメージが読みやすい。この話を聞いたベティは
鬱、落ち込む/穏やか、落ち着く
はげしく/おとなしく
という自身の心の動きという形で意味を読み込む可能性が高い。ハリウッド映画やクラシック音楽も同じく落差や両極端をだして人の印象に残る演出をしている。

Q.何故エリクソンは催眠の被験者にベティを選んだのか?
見て病んでいると思い、催眠の必要があると感じたから。催眠の必要がある人は深くトランスに入る。入る必要の無いトランスに人は入らない。催眠の必要性を無意識が感じる必要がある。また、ベティからすると、ベティの無意識がどうにかしてくれるかも?とエリクソンに期待を掛けた。
(参考)P26~P55心理療法における逸話の使用

ある話をして、その反応を見ることで、相手の興味方向を診断する。話の聞き方、催眠への反応、催眠の入り方も観察する。

共感的ラポール
相手がなじんでその通りだと思うような話をするとラポールがとれる。

治療計画の実行
ある話をして、話と共通の構造をおこさせやすくする。尾谷が塾講師をやっていた頃「やる気が出ない、どうしたら出るか?今までやる気をだすようにやってみたが上手く行かない」と生徒から質問された。
尾谷は「その話を聞いても、やる気を出す方法は思い付かないし、出す方法も知らないので八方塞がりだ。やれることは、やる気が出なくてもほぼほぼのところで受かる学校に志望校のランクを下げることとか、やる気が出なくてもやれることを考えるしかない」と答えた。
そういう話をすると微妙な顔をする。やる気が出てきましたと言い出したり、自分なりに何かしら行動を起こす。「一生やらないでいいと」言われると、それは嫌だとおもって反発して行動を起こすのはよくある。

ここではこの生徒はやる気が出たら問題が解決すると思っている。そう思って居る限り、いつかは行動ができるのだと希望を持つことが出来、現実もみないままでいられる。希望があるのでやる気が出ないままのんびり勉強せずにいられる。

しかし一生やる気が出ない、出ないかも知れないまま行動しないかも?という現実を目の前にだされると、心の底から諦めるか、行動するかの選択を迫られる。ここでやっているのはその人が引っかかっているパターンを破壊する事で行動を起こさせることだ。
行動している人/行動していない人
やる気のある人/やる気の無い人
を比較したときに、必要な考えが足りてないか、不要な考えがあるか。必要な考えが足りていないなら足し、不要な考えがあるなら取り除くという発想。

やる気を問題にする人は、それを問題にしている限り動くことが出来ない。自分はやりたいのだけど、やれないという形を取る。そこで自分に出来ることのレベルまでもどす。諦めるか検討をし、マズイと思って、「やろう」という考えを引き出す。真剣に「やらない事」について考えていない。

Q心理療法と催眠の違いは?
心理療法―建築
催眠はトンカチ
そして催眠を引き起こすことと心理療法は同じ構造だ。

催眠誘導は覚醒状態からトランスに入れる。他者の働きかけにとって、初めて普段とは異なる状態になる。トランスも同じ新しいパターンを引き出す。

心理療法は
困っている人がいるとして、その人のもつAという考えをBに置き換える。これも、他者からの働きかけによって新しい変化を起こす。困っているパターンがある。そのパターンが動かず自由度が無い。新しいパターンを引き出すことが心理療法の目的。

過剰にトランスに入らない人と言うのは病的だ。頑なに自分のパターンを守る。ガードを固めることで適応してきた。

Q,エリクソンの心理療法で催眠を使うのはなぜか?
ひとつは、心への麻酔。もう一つは、クライアントを変化させる方法として、一番得意なやりかたが催眠だから。一度何かパターンを変化させることが出来れば他のパターンも動く余地が出る。
0→1の変化が一番大変
1→10の変化は楽
動き始めが大変だから、得意でやり慣れているやり方で動かす。新しい変化を引き出した実績で、大きな変化を引き出す。
小さな変化は催眠
大きな変化は心理療法
構造は同じ、この2つはフラクタルな関係だ。催眠が上手く行けば、そのあとの治療も上手く行きやすい。

かたくななクライアントは変化への不安や恐怖がある。催眠で普段と変わった体験をしても、大丈夫安全だという体験をさせたい。だから安全にやらないといけない。この経験があると、催眠と同じ構造の心理療法でも上手く行く。

○アナロジー
クライアントが持っていきたい文脈で読み込むから、どう動くかは実際はわからない。あてずっぽうなところもある。とりあえず動かしてみる、バクチ的な感覚。

Q.被験者をとりあえず動かしてみることで悪いことはあるか?
尾谷の知人で、妻子持ちの男と不倫関係にあって、振り回されていた20代前半の女の子が居た。半分冗談で「男は数を見てこなす必要があるから月~金で1人ずつ、計5人の男を作れ」とアドバイスした。そしたら、本当に実行してその結果良い旦那さんを見つけて結婚した。結果オーライだがどう転ぶか解らない。

尾谷が家庭教師をやっていた頃、両親が不仲な子供を請け負っていて、子供の成績を上げた結果両親が別居してしまい、家庭教師の給料が払えないと言われクビになった。無気力な子供という問題を軸に繋がっていた夫婦が、子供の問題が解決してしまった結果、夫婦間の問題に直面する必要があり結果別れてしまった。

Q.どうしてバーバラは自分の問題を細かく解っている(と思う)のにエリクソンに頼った?
エリクソンに相談した後にジャックと恋人になり結婚をする。ジャックへの好意を感じていた時点で、神経症症状が出ていた。

通常、覚醒とトランスの話は覚醒状態(意識)とトランス状態(無意識)
の2つにパッキリ別れると理解されがちだ。しかし、エリクソンのトランス観はこうではない。

火曜日のサリーの話を思いだして欲しい。サリーがトランスに入ったとき、覚醒かトランスかという2つの層ではなく、
3,4歳の小さなサリー、
10代のリトルガールとしてのサリー、
今のサリー
といった形で3層にトランスが別れていた。

トランスといっても、グラデーションのある話で、トランスの中にも階層があり、それぞれの階層で話した話は、別の階層に行くと思い出されることが無かったりする。といった可能性はある。

バーバラがエリクソンに依頼をしているのはどの階層か?
仮にエリクソンに相談したバーバラを「トランスA」とし、
寝室に籠もったバーバラを「トランスB」とする
トランスAはどこまで自分のことが解っていてどこまで解っていないのか?
トランスBもどこまで自分のことが解っていてどこまで解っていないのか?

健忘は記憶を頭から完全に消し去ることではなく、意識に自覚させないことだ。

人はあるものに視線を向けることで初めて見えると理解する。例えば道端の花に視線を向けても、気がつくまで花に着いたナメクジは見えなかったりする。
たとえば、ワークショップに参加している人たちも、参加してる途中で「住所はどこですか?」と聞かれて初めて自分の住所を思い出すだろう。聞かれる前は考えにも上らない。人は見たくないこと、見る必要の無いことに、スポットライトを当てずに認識しないことをしょっちゅうやるのだ。

恐らくバーバラは大変賢い人で、エリクソンの催眠を病院で見たときに、こうした催眠の構造が見えたのだろう。


Q.意識の彼女はジャックへの好意に自覚があったのか?
仮に自覚があったとしたら彼女にとっては、ゆゆしきことなのではないか。自覚させないために神経症症状を使ったと言える。神経症症状に注目することでこの「問題が無くなれば解決するのに...」と思える。実際の本丸の問題には目を向けない。本丸とは無論ジャックへの好意。

トランスAはジャックへの好意に気がついていたかは不明だが
トランスBはおそらく気がついている。直感的なものとして、こうすれば上手く行くとなんとなく感じ取っている。

トランスAはエリクソンの催眠が上手く行くと解っている。でも何故上手く行くのかは解ってないかも知れない。

ワークショップをやっていると何か相談事がある人が忘れ物をすることがある。忘れ物をしましたと電話かがかかってくる、取りに来る、一対一になる、本題の相談に入る。というケースがある。

人は全て無意識的に動いていて、意識はあとから納得できる形でのストーリーを作るのでは?という仮説。無意識の方が実は自然な振る舞いかも。

俗物、スノッブ、上流な私たちという自己理想がバーバラにはある。下流と付き合うべきではないという信念もあるのだろう。生育環境、周囲の影響で
しかしその一方でジャックへの好意もある。これが上流志向とバッティングした。この2つの葛藤を抱え込むことは、意識では出来なかった。もしかしたら、彼女の意識では上流志向ということすら自覚していないのかもしれない。

動物的欲求(好意)と社会的欲求(上流)が対を為した形だ。

エリクソンのトランス誘導は、意識で直面しにくい問題を麻酔を掛けて問題解決する。

時系列にするとこのようになる。

①エリクソンへ依頼トランスA
②出迎え 意識
③春の話をしてトランスに入る トランスA
④ベッドルームにこもる トランスB
⑤健忘暗示を頼む トランスA
⑥帰ってくれと帰す 意識

ここのエリクソンの仕事は占い師のようである。

たくさんの占い師に見て貰う、占い師ショッピングをする人が居る。その人の中で答えは決まっていて、期待通りのことを占い師に言って貰いたくて言ってもらえる占い師を探す。大抵はその自覚が無い。

更に世の中に役に立つ/役に立たない占い師が居る。
役に立たない占い師は、相手の言って欲しいことをあてるが、適切でないことを言う。例えば不倫を続けたい人が居るとする、占い師が不倫を続けた方が良いと言えば続けてしまうかも知れない。言われた相手にとってプラスになるかは別だ。

占いもある種のカウンセリングである。占い師の中には無意識にカウンセリングをやっているという人は居る。本人はただ占いをしているつもりだが。
しかし、本当に占いを信じている人がやると、信じているからパワーがある。自覚的善意よりも無自覚な善意の方がパワーが強い

エリクソンは無意識教だ。無意識の声は大抵正しい事を言っているとする。相手の無意識に馬なりになってやってみる。その上で様子を見て判断する。

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