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オックスファム報告書を読む 政治経済研究所主任研究員 合田寛さん(5)目前にオルタナティブ〜すべてがNになる〜

2024年3月2日【経済】


 オックスファムの報告書は最後に、企業の力と独占の支配を打開し、すべての人のための経済に向かうにはどうすればいいのか、課題を提起しています。

企業の力を制限

 とられるべきステップとして、第一に、最富裕者とそれ以外の人々の間の格差を縮小し、世界の平等レベルを根本的に引き上げること、第二に、企業の力を制限し、富裕者だけに報いる経済ではなく、すべての人のための経済を打ち立てることをあげます。

 さらに企業の力を制御する方策として、三つの課題を示します。

 一つ目は、国家の活性化です。企業の権力に対する最大の防波堤になる有能で強力な国家をつくり、市場の失敗を是正し、共同の目標に向けて経済のかじを取るよう求めています。

 経済のどの部分を公的部門が提供すべきかは国ごとに異なるものの、医療・保健、教育、介護、社会的保護など不平等を無くすためのサービスは、公共部門が所有し、供給する必要があります。公共交通、エネルギー、住宅、その他の公共インフラ、気候変動に対応するための対策などの公共的な分野への投資も求められます。

 二つ目に、大企業と富裕者の力を制御するために、独占を解体し、企業の力が大きくなりすぎないようにすることです。そのために独占的企業の力を分散化し、行きすぎた集中を規制し、国有化などの措置をとること、また知識の独占を排除し、特許権に関するルールを民主化することを政府に求めています。

 また労働者の状況を改善するために、生活できる賃金と働きがいのある人間らしい仕事を与えること、労働組合結成とストライキの権利を認めることを求めています。同時に、経営トップに対する報酬の額は一般労働者に対する支払いの20倍を超えてはならないなどのルールをつくり、上級経営者の報酬に上限を設けることも提案しています。

 さらに富裕者が所有する富に対して、累進税率で課税する恒久的な富裕税の創設や、配当や株式譲渡益に少なくとも労働所得と同じ税率か、より高い税率を課すことを提案。大企業にもコロナショックや戦争ショックによる「棚ぼた利益」など超過利益への課税、多国籍企業によるタックスヘイブンなど低税率国への利益移転を認めず、実際に経済活動があったところで税を支払わせることなどを求めています。

ビジネスの変革

 三つ目に、ビジネスの在り方を変革する課題です。現行の企業構造は非民主的で、少数のエリートの利益を目指して経営されています。主要企業に民主的な所有とガバナンスを注入することによって、不平等を正すのみならず、社会問題により良く応える企業モデルを構築することを求めています。その芽は世界のいたるところで生まれつつあり、オルタナティブ(代替案)は目の前にあると、報告書は締めくくっています。(おわり)

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