神の島と呼ばれる島|本当に透明な海は存在した

懐かシリーズ33


沖縄本島からフェリーで15分。

沖縄琉球創設神話にも登場する神の島、久高島に私は居た。

国造りの神様でもあるアマミキヨが降り立ったとされるこの島は、なんだかとてもスピリチュアルな香りがする。

島の直径約3km、一周8kmの小さな島に人口約200人弱が住んでいる。

島に着いて、早速私は島唯一の受付で自転車を借りて島をサイクリングした。

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フェリーの切符。予約不要
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2021.3.17 現在のフェリー運行表
ゲーム、「おいでよ動物の森」の南国シリーズの舞台に来た気分だ。

ハイビスカスって本当に咲いてるんだ、と感動しつつ塗装されていない道を進む。

太陽がジリジリと私の頭皮を刺激する。

なんて暑いんだ。帽子も持っていなかった私は、携帯で現在の温度を調べる。

28°ーーーーーーー。

そりゃ暑い。立派な夏だ。

熱中症にならないことを祈りながらとりあえず島の、久高島の住民を探す。


迷路のような道を自分の嗅覚だけを便りに進んで行く。

島にある建物はどれも年季が入っている。

家の白色の壁紙の剥げている様子が本島よりも激しい。

家も一昔前の作りなんじゃないかと思わせるような石で作ってある家もある。

それらを見て、福島の田舎にある父の実家の雰囲気に似ていると思った。

道を思うがままに進んでかれこれ15分くらい。全く住民を見かけない。

確かに、人よりも猫の方が多いこの島で住人と会うのは至難の技なのかも知れない。

住民に会って話を聞こうと思っていたのに。

観光スポットを飛ばして住民に会うことを第一優先にしていた私は、他の観光客の自転車とは違う動きをしていた。

周りには人だんだん建物がなくなっていき、人の気配もしなくなる。

すると、目の前になんだか重たい石板でできた焼却炉のようなものがいくつも散らばっているところにたどり着いた。

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なんだここは、少し気味が悪い。こんなものは今まで見たことがなかったものだから、この集積がなんなのかわからない。

楽しい場所ではないことは確か。それは感覚的にわかる。

ビビりながら、自転車から降りてその焼却炉の集合群に足を踏み入れる。

焼却炉がこんなにあるのか?なんのために?不気味さを感じながら内側に回り込む。

外側しか見ていなかったから分からなかったが、内側に回り込んで覗いてみると、名前が書いてある石が立っていた。

(これは、お墓だ!)

どうやら、小型焼却炉みたいなものだと思っていたそれはお墓だったらしい。

お墓といえば、石が立っていてそれがお墓の象徴でもあり、そこにお花とかを指す場所があるものだと思っていたのに、私が今見ているものは棺のようなものが入るんじゃないかと思うくらい大きな石でできた焼却炉のような箱がある。

一つ、一つの墓がでかい。

私の実家のお墓とは比べ物にならない。

「ガサガサガサ」

急に草むらからした物音に、次元が違うお墓を目の当たりにして緊張感マックスだった私は驚き、怖くなって慌てて自転車に乗って逃げ出した。

この草むらからの音はおそらく蜥蜴だろう。この島に2時間もいれば慣れてくるものだが、まだ慣れていなかった私はびっくりして逃げ出してしまったのだ。

お墓を後にして、なんだか肌寒くなってきた私は人を求めて、住居があるところへと向かう。

すると、「軽食あります!」と言う旗が立っている建物があった。

自転車を近くに止めて、外の窓から軽食屋の中を覗く。

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覗いてみると、3人の住民がいたので勇気を出して突撃してみた。

「どこからきたの?」から始まり、何を食べるかを話しながら、沖縄そばを頼んだ。

人生初の沖縄そばがまさか、沖縄の離島、久高島で食べるとは...。

気づいたら、他の住民は店内に居なく、私と女性の店主2人だけになっていた。

「お待たせしました〜」

の言葉もなく、ドンっと沖縄そばが置かれる。

久高島の軽食屋「はましむ」の沖縄そば。もずくを入れるのはここだけ?
「ありがとうございます」とお礼を言って早速そばをすする。

(美味しい〜!)

麺はカップラーメンを彷彿させる縮れ麺で、スープが麺に絡みやすく、しっかりと私の口の元へ麺がスープを運んでくれる。

トッピングは、紅生姜、もずく、豚の角煮、しその葉だ。

紅生姜がさっぱりさのアクセントになってそばがすすむ、すすむ。

(これが沖縄そばか〜豚の角煮がついてるって最高だ)

しっかりとそばを完食した私は、お会計をするために女性の店主の元へと向かう。

「ありがとうございました、美味しかったです」

お金を支払ってから、勇気を出して、店主に話しかけてみた。

久高島のおすすめスポットや、島の猫のこと。

そばを食べたからか、お店の人も親切に教えてくれる。

そして、私は本当に気になっていた儀式についてや、この島について聞いて聞いてみた。

「お姉さんも、儀式になったらあんな感じの衣装とか着るんですか?」

すると店主は、

「...うん」

そこから言葉が出てくるかと待っていたが、「うん」で終わりだった。

私が調べたとこと、この島の儀式は1年で30以上あり、中には男性立ち入り禁止の儀式や、島の男性やこの島以外の誰にも話してはいけない得体の知れない儀式もあるらしい。

女が男を守る島とされ、不思議な能力を持った島の女性、神人が儀式の中心となって儀式を行う。そして、島の至る所に立ち入り禁止の場所クボウウタキなどがある。


その場所は一見ただの窪みだったりするわけだが、神聖な儀式で使う場所なため、立ち入り禁止なのだ。

そこへ面白半分位入った人が頭がおかしくなった、などと言う都市伝説的なこともネットにはある。



私は、店主はもしかしたら儀式についてあまり話してはいけないのかも知れないと感じ取り、会話を切り上げて店を後にした。

そして、店主が進めてくれた交流館へと向かう。

交流館に着くと、またもや猫が私を迎え入れてくれた。

交流館の目の前の段差に座ると、猫が膝の上に乗ってくる。

(んっは〜島の猫ってこんなに懐こいのか〜)


もう、ウハウハである。

すっかり猫に骨抜きにされた私は、交流館が目の前にあるというのに猫と戯れすぎて、交流館にはなかなか入れずにいた。

私の実家でも猫を飼っており、猫が大好物の私にとって、この島はパラダイスで、猫にモテまくるからとても幸せだ。

流石にそろそろ交流館をみたいと思って猫をそっと隣に置いて、交流館に入った。


儀式の様子らしい
儀式について色々説明があるが、その説明の語句さえも意味がわかっていない。

久高島の儀式を理解するのは難しそうだ...。

次は、ロマンスロードを通ってカベール岬を目指す。

このカベール岬までの一直線の道は神も通ったとされておりとても神聖な道だ。


ロマンスロードから見える透明の海
ロマンスロードをすすむと左側はもう、透明の海だった。

生まれて初めて生で透明の海を見た私は思わず自転車も止めて息も止まった。

本当に感動するものに出会うと人は自分の体感時間がスローになると思う。

心動かされた物事でしか人は時間を感じられないなら、今の私は限りなく長い1秒を体験していた。

画像1

(沖縄きて良かった)

ここで初めて私は、沖縄行きを断念せずにここまできたことに達成感を味わった。

透明の海はとても綺麗だった。

海は寒々とした藍色しか見て来なかった私にとってこの色は異常だった。

なんて暖かい色をした海なんだろう。

海がこんなに綺麗だなんて、きっと400年前の江戸っ子は知らなかったに違いない。

藍色の海の世界と透明な水色の海の世界とじゃ、考えることや感情が違ってくるのではないか、など、生まれた場所の格差について考えてしまった。

しかし、生まれる場所は選べないけど、自分の好きなものを見て好きなとこに住める自由はあるはずだ。生まれた後は全部自分次第なのだと自分に言い聞かせる。

ロマンスロードで海に見惚れながら、島の最先端、カベール岬へとすすむ。

カベール岬に着き、自転車をその辺に止める。

少し丘になっており、その丘を越えるとまたも、綺麗な海が視界一杯に広がった。

スニーカーの中に砂浜が入るのも気にならず、青空と透明のコントラストに気を取られながらゆっくりと歩きを進める。



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カベール岬
教科書にも、Googleにも雑誌にも綺麗な海は載っているが、「私がその海を見た時の気持ち」はどこにも載っていない。

私自身がそれらを見てどう思うのかに私は興味がある。

沖縄にきて良かった。久高島にきて良かった。

綺麗な景色でお腹いっぱいになった私は、自転車にのってカベール岬を後にした。

海に足を入れてみたいと思い、島唯一の海に触れてOK な浜へと向かう。


イシキ浜。

「私は〇〇からきた〇〇です。お邪魔します。」

島全体が神聖なので、そう心の中で唱えてから海に足を踏み入れようとした。

しかし、あまりの神秘さに海に入ることを躊躇い、スニーカーを脱がず、海にも足を入れないでただ浜辺でボーッと見ていた。

コケが生えてる。

砂浜じゃない浜辺って変な感じだ。

日差しで頭が痛くなってきたので私は浜辺を後にした。

久高島で驚いたことはたくさんある。

こんなに島が小さいのに小学校があったり、島の猫は赤ちゃんを産めないように避妊手術済みで、否認してある猫の耳には切れ込みが入れてあったり、島のサイクリングの受付のおばちゃんは文字が書けなかったり、島の言葉は何語かわからなかったり、沖縄本島の人は神聖すぎてあまりこの島に近づこうと思わなかったり。

私は3時間も帽子なしでサイクリングしていたので熱中症のような症状になりぐったりしながら帰りのフェリーに乗った。

(さらば、久高島)

久高島と自分はとても温度差があった。

その温度差が何なのか、この違和感が何なのかを考えながら島を動き回っていた気がする。

フェリーに揺られながら、もしかしたら久高島の住人は猫カフェの猫のようなものかも知れないと思った。

猫カフェの猫は撫でられすぎて近寄ってこない。

それに似たようなものを久高島の住人にも感じた。

久高島の住人にとってこの島は神聖な島だけど、日常だ。

その日常を物珍しく観光に来る観光客。

観光客にとっての特別と、島の住人にとっての日常が私が感じた温度差だったのではないだろうか。

そんなようなことを考えていると、私は久高島にノートパソコンが入ったカバンを置いてきたことに気づいた。

(これって、神の島にまた呼ばれている...?)
自分の大やらかしに呆れながらも、旅のハプニングは旅を面白くするものだと思っていたので、1日2往復して久高島へ行くのもありかとさえ思った。

しかし、所持金が帰りのバス代しかない。

これは困った。

本島に着いて、フェリーのおばちゃんに事情を説明したら島の人が荷物を取りに行ってくれた。

なんて優しいんだ。

島の人も、受付のおばちゃんも、本当にありがとうございました。

荷物を忘れないようにするのはもちろん、沖縄の人の優しさを身を以て知った出来事だった。

こうして、私のロイヤルサクセスパニックストーリーin久高島は幕を閉じた。




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