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頑張れお母さん

子を習い事のお迎えに行く途中、
目の前をしんどそうに
足取り重く
雨上がりの水たまりにも
低めのヒールで突っ込んでいく
女性の足が見えた。

ちょうど下り坂で私の目線は完全に足元。
その人の靴の色は黒、素材はスエードで
どすりどすりと一歩がとても重い。
足を置くというよりも
足が落ちていくという表現が
合っているかのようだった。

すごく違和感のある歩き方だったため
目線を上げて確認してみると
大荷物を担ぎ
さらに子どもを抱っこしている姿が
目に入ってきた。

大きな仕事用の皮の鞄を右肩に、
保育園の荷物が入っていると思われる
これまた大きな布製のバッグを左肩にふたつ、
よく見ればスマホを入れる
小さなポシェットも右側にかけていた。

抱っこしているのは
2歳くらいの女の子。
上手におしゃべりできているし
明らかに自分の足でしっかり歩けるくらいの子だ。
ご機嫌で鼻歌歌って足をぶらぶらさせているが
その足元は靴下で靴を履いてはいない。
つまり歩く気ゼロ。

——大変だなぁ
——荷物どれかもってあげたいなぁ
そう思うも
確実に警戒されるだろうし
家まで運べるわけでもないため
後ろから応援するだけに留めることにした。

子どもにとって
親というのはなんなんだろうと
考えることがある。
なぜあんなにも全面的に私のことが好きなのか。
(幸いにしてまだ好きでいてくれる年齢だ)
信用され、頼られ、甘えられ、遊ばれる。
あれこれ世話を焼き
叱ることはあるものの
それでもめげずに親を好いている。

まぁでも目の前の女の子にとって
この時間は親なんてただの
便利な移動手段に過ぎない。
車と一緒だ。
荷物を全部積み込み、
自分が乗っかれば
自動で家まで運んでくれる。
——夢の完全自動運転
話しかければ会話もしてくれる
機能も搭載されている。
——夢のAI

かつて私も通った道だ。
全てをこの身ひとつで担ぎ上げ、
決して転ばず
途中投げ捨てたりもせず
毎回大事に持ち帰っていた。
何年経とうがこうした姿は
見かけるものなのだなと
同志を見送るような気分だった。

どうか体に気をつけて
頑張ってほしいな。

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大須絵里子
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