魔法で空を飛びましょう
空を自由に飛び回ることは
人類の夢だったと思うが、
私が物心ついた時には
既に飛行機は発明済みで
人は移動手段の一つとして
飛行機を利用できる時代になっていた。
私は夢が実現されたあとに生まれ、
人が空を飛ぶことは当たり前の世代にあたる。
私がまだ夢見る少女だったころ、
機械に頼ることなく
超能力や魔法の力を使って
どうにか飛んでみたいと願ったものだった。
ホウキにまたがってみたり、
少しでも浮いた気分になりたくて
階段の高いところから飛び降りてみたり、
そんなことをした記憶がある。
私がまだ夢見ることから
抜け切れない大人の女になったころ、
友人と乗った当時最新のジェットコースターが
一気にレールの天辺から滑り降りていく際に、
怖い気持ちを紛らわすために
——私は今空を飛んでいる!
と自分を誤魔化していたこともあった。
今日自転車に乗っていると
対向する形で飛行機が
飛んできているのが見えた。
空は晴れており、
遠くには真っ白な雲が浮かんでいたが
この上空に限っては雲が全くなく
澄み渡った空が広がっていた。
そこを一機の飛行機が
真正面を私に向けて飛んでくる。
私は私で飛行機に向かって
スピードに乗って突き進む。
しかし不思議なことに
飛行機は全く微動だにしないのだ。
切り抜いた写真を
空にピンで留めたかのように
私を向いたまま
そこにただあるだけだった。
私は確かに近づいている。
空に写真など貼れるはずもないため、
また私にだけ見える特別機ではないため、
進まねば大変なことになるその飛行機は
休まず飛んでいるはずだ。
要するにあまりに角度がぴったりすぎて
私からは動かぬ空に浮かぶもののように
見えていただけに過ぎない。
前方に注意しつつ運転しながら
時折飛行機に視線を向ければ
ほんのわずかずつ
飛行機見え方が大きくなっているのがわかった。
曲がり角を曲がる際には
飛行機と真正面に対峙する形ではなくなるため
飛行機が明らかに進んでいるのを見てとることができ
ほんの少しほっとしたのも事実だ。
タイミング一つでしかないのだか
とても不思議な時間だった。
時も景色も、まわり全てが動いているのに
視線の先、一点だけが止まっているかのような風景。
ドラマの中のスローモーションのシーンを
体感したような気分だった。
私は夢見る子を育てる親になり、
自ら飛べるはずの飛行機が
魔法の力で飛ばされているようかな現場に遭遇したと
子以上にはしゃぐような女になった。