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春よ

家を出て、マンション内の階段を下りている最中に、窓から覗く景色は雪だった。
レインシューズは履いていたものの、折りたたみ傘をリュックに忍ばせて出てきたものだから、引き返して長傘に取り替えることにした。

仕切り直して外へと出れば、確かに雪が降っている。
道行く人たちは帽子をかぶっているだけの人が多く、駅の方向を見通しても傘を差しているのは少数だった。

人の流れと逆方向に私が歩けば、寒そうに身を縮ませた人たちとすれ違う。
大寒波がやってくると言うが、それがどれほどのものなのか実のところわからない。

電車に乗ると、閉まっている方の扉に背中をもたれさせて長身の青年が立っていた。
手元には本を持ち、じっと眺めている。
表紙には「世界史 一問一答」と書かれている。
――あぁ、試験か
午前中ではあっても早朝とは言えない時間帯だったため、これから試験とは思えない。
でもまだ彼の受験は終わっていないのだ。

試験の時期はどうしてこうも雪がちらつくほどに寒いのだろうか。
電車に乗ってもほっとするような温かさはなかった。
家の中でも節電のために暖房を控えているから、着込まないと寒い。

暖かな春がやってきますようにと、季節と、未来とに、願う。

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大須絵里子
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