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雨粒

台風はまだまだ距離があるというのに、どうしてか強い雨が降っている。
行きはタイミングよく出かけることができて、大したことのないうちに駅へ着くことができた。
しかし帰りは反対で、雷も鳴っている大雨の中歩く羽目になってしまった。

雨雲が動いているから上空で風が吹いていることは確かなのだが、歩いていても風をあまり感じることがなく、雨が横殴るようなことはない。
大粒の雫が空からぼたぼたと真っ直ぐに落ちてくるのは、どこか不思議な感覚だ。

傘はぼたぼたと大きな音を立てながらも私を雨から守ってくれるから、私の体は頭から膝辺りまで濡れることはない。
排水が間に合わない程の雨量のために、広がった水たまりを避けたり突っ込んだりしながら歩いていると、どうしても膝から下は濡れてしまうのだが。

両手で傘を真っ直ぐにしっかりと持って、雨が真っ直ぐに落てくる中、足をそろりと進ませる。
からくり人形のような動きだが、頭上の大きな水音の割に体は濡れることはない。
雨の中歩くと腕や肩や背中など、体のあちこちが濡れてしまうイメージというか、諦めがある中で、垂直の雨は思いのほか苦労はなかった。
高層のマンションの側を通った時だった。
風が吹き始め、雨を体にぶつけてくる。
――ビル風か
水と重力とが一直線に繋ぎ合っていた関係を、絡めるように横恋慕する風。
途端に私の体は濡れてしまい、楽しかった気分をぶち壊されてしまった。
嫉妬などするもんじゃないぞと風に文句を言うも、風はビルという大きな味方を背にして、思うがままに雨粒へと気持ちをぶつけていく。
雨の方もまんざらではないというように、横へそれながら大地に落ちるまでの時間を舞う。
それでも結局、こちらへおいでと重力を以てたぐり寄せる大地が全てを丸呑みにしてしまうのだが。

とばっちりを受けるのは私だけ。
家についてみれば結局、体もカバンも、パン屋で買ったおやつのドーナツが入った袋も、あれもこれも濡れてしまっていた。
まぁ台風ですから。
人間なんて無力ですからと、濡れた服を脱ぎ、タオルで拭った。

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