悪いのはどっち?
先日愛知県の市民病院が、4年間の時間外勤務手当の支払いが不十分だったことを認め、その差額(計8億円)を支払うとともに今後の手当を見直すと発表した。救急患者を多く受け入れる、多忙な市民病院である。
「当直業務の際に時間外手当を払っていなかった」
職員に支払うべき手当を支払っていなかったなんて、何と酷い病院なのか!と思われるかもしれない。
法律上は夜間の救急患者対応(外来・処置・手術)を「当直」として扱うと「やや高めの手当」が発生する。一方で「宿日直許可」さえとってしまえば「安い手当」で翌日も医者を働かせられる。
宿日直許可については前回解説した。
「宿日直許可」を得た「宿直」は「めったにない軽症外来患者の診察や簡単な病棟患者の指示出し等だけの仕事」だから「十分眠れる」「だから翌日も働いてよい」「手当も安くてよい」というルールになっている。
一方、「一定数の外来患者の診察・処置・手術」のある「当直」は、当然「夜間休めない」ので「翌日午後からは休まねばならず」「十分手当も支払うべき」。
ところが今の日本の医療では、どの救急病院もこれを当てはめると医療体制的にも病院経営的にも崩壊してしまうので、当直の翌日も医師を休ませるわけにはいかず、十分な手当も払うわけにはいかない、というのが現状。
最初に、「働き方改革♡」という国内外問わず耳障りのよい言葉で、現実離れしたルールを設定してしまった厚労省が、後になってこれに気づき、今では労働基準監督署に申請してきた病院をろくに調査せず(調査のしようがない?)、または却下しようものなら「この地域の医療がどうなってもいいのか!」などと詰められ、結果的にほぼ全ての病院に「宿日直許可」を与えるという愚策に陥っている。
私は小牧市民病院は「悪い」のではなく単なる「情弱」だと思っている。
ちなみに私は事実を曲げて上手に「宿日直許可」をとる病院も悪いとは思っていない。確かに本当に医師不足の地域ではそれ以外に市民の健康を守る術がないから。
間違っているのは「制度」であり、「それを決めている人達」であろう。
もうこれ、医者を増やすか、患者の自己負担を増やして来院患者を減らすか、それ以外にないだろうが。