医師がAIロボットではなくて人間じゃないといけない理由
Chat GPTが結構便利でちょっとしたことで仕事に活用することが増えた。AIやロボットが、いつ、どうやって、どこまで医療現場に浸透するのか、考える機会が増えてきた。もうそんな時代は目の前に来ているのかもしれない。
AIの医療知識は既に専門医を超えているようだ。ロボットが可能な手術では、その技術は既に専門医を超えていることが知られている。これを組み合わせれば、近い将来、無敵の医師が造り上げられそうである。
診療科にはいろいろある。非医療関係者の方にはなじみが薄いかもしれないが、あまり患者に直接接さない診療科もある。こう言うと研究医のことですか?と言われそうだが、ここではひとまず基礎医学研究医や社会医学系の先生(法医学や公衆衛生学など)は除外しよう。臨床医といっても放射線科、病理科、麻酔科医は直接患者に接する機会が少ない。放射線科は画像診断、病理科は病理診断、麻酔科は外科麻酔を通して、診療に携わっている。
医学部受験生が入試面談で発するお決まりのフレーズとして、病気に苦しむ患者さんに直接関わって治療する仕事がしたくて医学部を志望しました、というものがある。ところが高偏差値受験生の行きつく先としての医学部には、理系科目に特化した才能の反動か、コミュニケーション能力に欠けた医師が少なくない。上手に患者と接さない診療科を選んで伸び伸びと仕事をする者もいれば、何を血迷ったかコミュニケーション能力を要求される診療科を選んでしまい、苦痛なroutine workをこなしている人もいる。
ところが近年、働き方改革やら女性医師の増加、ワークバランスという言葉の流行から、患者に振り回される、特に緊急性を要する診療科は敬遠される傾向にあり、むしろこういった患者とは少し距離を置いて、オンオフのメリハリをつけやすい診療科の人気が上がっている。
さて、治療がうまくいって患者さんに感謝されるのは、直接患者に接する医師としての醍醐味である。大したことをしなくてもえらく患者さんに感謝されたり、今一つうまくいかなくて患者さんが亡くなってしまっても「今までありがとうございました」と恐縮するほどにご家族から感謝されることもあれば、自分の目の前に現れた地点で手遅れなほど病気が進行しており、云わば敗戦処理のような見込みの薄い状況だけれども、何とか自分の時間を犠牲にして全力で治療にあたったが残念ながら亡くなってしまい、挙句になぜか家族から恨まれるケースもある。(亡くなった患者家族から医師が襲われる事件も多々ある)
「生身の人間医師と違って、AIを搭載したロボット医師には感謝することも不満を言うこともできない。」
これが本題の答えだろう。
ロボットに感謝する患者はいないし、苦情を言う患者は虚しい。(ロボットを襲って破壊する患者家族が出てくるかもしれないが)
つまりAIロボット医師は患者治療の責任を持たない。
AIロボットは、臨床医の手足となって画像・病理診断や手術、麻酔をしてくれるが、最終的に総合評価を受けるのはそういったテクノロジーの活用も含めて診療にあたった医師だろう。
この部分は生身の人間である必要があり、当面ロボットが代用する未来は私には見えない。
画像や病理診断ミスや麻酔の不手際があっても、患者に直接関わらない医師が表に出ることはめったにない。勘のいい患者に「これってミスですよね?」とチクリと言われても、何となくうまいことやり繰りして、その後は精一杯尽くして、最後に患者さんに「先生方も人間ですもんね、その後一生懸命治療してもらって感謝してます」と言わせることが患者に直接接する医師の仕事でもある。勿論裁判沙汰になった場合には、普段表に出ない医師の出番もあるだろうが、そうはさせないようにカバーしている。
逆に自分が見落としかけた癌を放射線科の先生に見つけてもらうこともあり(むしろ圧倒的にこうやって助けてもらうことの方が多い)、お互い様なのでディスるつもりは全くない。自分で診療科を選んでいる訳だし、それに関する不満もない。が、こと「患者への責任」という点については、「希薄だなあ、無責任だなあ、困ってる患者に直接接してないもんなあ。」と感じることはたびたびある。
何はともあれ、申し訳ないが、AIロボット時代に生き残るのは、患者に直接接し、責任をとる診療科の医師だと思っている。これから自分の専門を決める医学生や研修医さんはもし良かったら参考にしてください。
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