そのカニは本物ですか?
むかしむかし、あるところにカニがいました。
そして、カニのいるところには必ずカニを疑うおじいさんもいました。
そのカニ疑いじいさん、カニがいるところに必ずいるということは、カニを疑っているにも関わらず、カニと認識しているという事実を自らで証明してしまっていることに、憤りを感じているんじゃよ。
とよく呟きがちとのことです。
ある日のこと、疑じいさんは、村の権力者である神主に缶切りを借りたのですが、一緒に手渡された便所紙を嗅いでみると、『くんくん』のふた嗅ぎ目にカニの臭いがしたから大変です。
疑じいさんは、目の色を変えて村人全員を車座にさせて、中央に便所紙を置きました。
疑じい「さて、皆さんの目の前のこれは、一見すると便所紙ですな。じゃが、わしはこれを、カニであると宣言する。」
それを聞いた村人達は、それぞれがひきつけを起こすほどの勢いで笑い、その笑い声が中央にある便所紙の芯に吸収されていったのです。
それを見た村の神主は、満を持して便所紙を天高く掲げたのです。
神主「皆さん、これをご覧ください!便所紙には、こう書かれていたのです。」
『カニ臭と笑い声が渦巻き状に包み込まれた時、最大の幸福が村に訪れる。』
それを見て、村人達はスックと立ち上がり真顔で通常の歩行速度を保ち、家に帰宅しました。
気持ちが悪くなったからです。
そして、神主が疑じいさんの顔を、股のぞきの姿勢で覗き込むと、疑じいさんはぴちゃぴちゃと舌なめずりをしてましたとさ。
めでたし、めでたし。