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服づくりをもっと身近に:『OSOCU』が考える職人の定義

「職人」という言葉を聞くと、多くの人が長年の経験を積んだ熟練の技を持つ人を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、『OSOCU』が目指すのは、もっと身近で、誰もが手を動かし、ものづくりに真剣に向き合える環境です。

2024年4月より始まった『OSOCU』のこれまでの振り返りや実現したい未来、アイテムが出来上がるまでのストーリーなどをライターがインタビューしながら伝える企画「読んで知る『OSOCU』」。

第10話目は、「『OSOCU』が考える職人の定義」について。「普通の人が職人になれる社会になってほしい」と語る『OSOCU』代表の谷氏にお話を伺いました。インタビュアーはつむぎ(株)のサトウリョウタです。

職人は、ビジョンを実現するために欠かせない存在

工房の縫製士さんの働き方も多様

サトウ:まず最初に、『OSOCU』が考える職人像について教えてください。

谷:『OSOCU』が考える職人とは、「手を使って職業としてものづくりをする人」です。趣味ではなく、職業として携わっていることが大前提ですね。最近ではデジタルを駆使したクリエイターや、趣味の延長線上で製作している方々も「職人」と呼ばれることがありますが、『OSOCU』の定義する職人とは異なると考えています。

『OSOCU』としては基本的にその長く続いている技術に着目している以上、手が全く介在していないものを職人と定義した場合、いろいろなところでズレが出てくるなと。ただ、これはあくまで私たちの考え方なので、違う捉え方をする人がいても良いと思っています。

サトウ:なるほど。あくまで職業として「手を使う」ことが重要なんですね。では、一般的な職人のイメージとの違いについては、どう考えていますか?

谷:感覚的な話にはなりますが、一般的に「職人=熟練者」というイメージが強いと思います。特に伝統工芸の分野では、その傾向が顕著な印象です。しかし、『OSOCU』では「熟練であること」が職人の必須条件と考えていません。

サトウ:確かに職人といえば熟練者というイメージが強いです。

谷:「1万時間の法則」ってあるじゃないですか。12時間×300日×3年で1万時間に到達するんです。そこまで時間をかけた人は年齢に関係なく、職人と呼んでもいいと思っています。3年は極端に短期だとは思いますが、例えば20歳で専門学校を卒業して、仕事として5〜6年服を作り続けている人は十分職人になりえます。もちろん技術の種類やレベルがあるのでゴールというわけではないですが、これだけの時間を正しく努力を投入できていれば職業として食べていけるべきだというのが私の考えです。

サトウ:一つの物事に1万時間も注いでいる人は立派な技術を持っている方がほとんどですね。『OSOCU』に携わる職人さんたちはどんなバックグラウンドを持っている方がいるのでしょうか?

谷:『OSOCU』に携わる職人さんたちは、ごく普通の人たちばかりです。フリーランスとして活動する人はもちろん、扶養の範囲内で働く人、定年という転機で新たな挑戦を始めた人など、本当にさまざまなバックグラウンドを持っています。逆に「職人一筋〇十年」という方は、いないですね。私たちは大歓迎なのですが、『OSOCU』の働き方や考え方が少し従来とは変わっているからかもしれません。

職人はビジョンの実現に欠かせない存在

元縫製工場を借りているので、工房にはオーナーさんの昔ながらの道具もたくさん

サトウ:服づくりに縫製技術は欠かせませんが、そのほかに必要なスキルはありますか?

谷:高い縫製技術がある人=綺麗な服ができるとは限りません。一定の技術力があるのは前提ですが、綺麗な服づくりには丁寧にやるかどうかという性格的な側面が強く表れると私は考えています。

たくさん服を作りたいという理由で、スピード重視になる人もいます。それが収入に繋がるので、合格ラインをクリアできていればいいと考えている人もいますし、毎回自己ベストを尽くす人もいるわけです。

サトウ:なるほど。ある程度技術力を身につけた後は、丁寧に仕上げるという意識がクオリティに直結するということですね。

谷:そうですね。ただ、OSOCUとしては日常的に着る服として問題がなければ、どのような方向性の職人を目指すかは自由でいいと思っています。一方で、シャツが3万以上するような高価格を手掛けるのであれば、丁寧さは必須だとも思っています。このあたりは感覚なので、異論はもちろんあると思いますが。

サトウ:ちなみに『OSOCU』にとって、職人とはどのような存在なのでしょうか?

谷:『OSOCU』にとって職人は、ビジョンである「作り手と使い手が無理なく持続的に関われる社会の実現」を実現するために欠かせない存在です。今後も大量生産の工場は生き残ると思いますが、小規模生産の会社や個人は日本で服を作れなくなる未来がやってくるかもしれない。いろいろな方面でも言われていることですが、かなり現実味を感じています。

日本でも小規模な服づくりができる環境を残したいという気持ちがあるので、 主流にはならないけど、これからも模索していきたいです。

フラットな関係を築くことで意見を言いやすい環境に

自社工房があることで細かな改善が各段に実行しやすくなった

サトウ:『OSOCU』では、製品開発において職人さんの意見や技術をどのように反映させているのでしょうか?

谷:新作を頻繁に出すわけではないので、職人の意見や技術が直接反映される機会は、それほど多くないのが現状です。既存商品の改善点に関しては実際に購入してくれたお客様や販売員さんからいただく機会が多いです。

ユーザーからのフィードバック⇒職人さんが仕様を考える⇒改善という流れですね。

私は職人ではないので、仕様変更の方法に関しては、職人さんの意見を素直に受け入れ、まずやってみるを基本にするようにしています。

サトウ:職人の方々とのコミュニケーションについて、特別に意識していることはありますか?

谷:特別な意識はしていませんね。他の職種の方々と同じように接するようにしています。年齢や経験に応じた配慮は当然必要ですが、それは職人に限った話ではないですし、特に「職人だから」と構える必要はないと思っています。強いて言えば、作業中に話しかけないなど声かけのタイミングに気をつけるとかですかね。

サトウ:フラットな関係を築くことで、より良いものづくりに繋がっているんですね。

谷:そうですね。その方が、お互いに気持ちよく仕事ができますし、職人さんも気軽に意見を言いやすい環境になると思います。環境は一朝一夕でできるものではないので、関係性を日常的に積み上げていくことが大事ですね。

AIを積極的に取り入れつつも、人の手にしかできない部分はしっかりと守っていく

尾州ウール 毛七 ノーカラージャケット 再生羊毛(リサイクルウール) ブラック

サトウ:職人の技術を現代のファッションに取り入れる際に、課題はありますか?

谷:縫製で意識することはないですが、染色の工程に関しては、「日常に溶け込むデザイン」であることを重視しています。技術的に素晴らしくても、実際に着てもらえないと意味がありませんから。だからこそ、伝統技術を活かしつつも、普段の生活で違和感なく着られるデザインであるかどうかは常に意識しています。もちろん、あえてアートピースのような個性的な作品を作ることもありますが、基本的には「日常で違和感なく使えるか」が大切だと思っています。

サトウ:実用性と伝統のバランスが重要なんですね。

谷:そうなんです。伝統的な技術をただ踏襲するのではなく、現代のライフスタイルに合った形で取り入れることが鍵だと思っています。今はよく言われることですね。こうやって様々な会社や業種で現代なりに伝統を取り入れていくことが継続するために一番大事だと思っています。『OSOCU』も微力ながらその一端に貢献できたらいいですね。

知多木綿 シャンタン生地 レギュラーカラーシャツ 竜巻絞りブリーチ

サトウ:最近、社会では生成AIやChatGPTなどAIの活用が進んでいますが、『OSOCU』ではどのようにAIを取り入れていますか?

谷:現時点でも、企画の壁打ちやネーミングのアイデア出しなどの壁打ち相手として、生成AIを活用しています。画像作成や広告クリエイティブでもクラウドサービスを活用しているので、自然とAI活用はしていると思います。その中でもSNS広告運用はAIなしでは考えられない状況なので、こう考えるともうすでにAIの関与は大きいですね。

ただし、デザインや型紙作成は、ほとんど人の手で行っています。AIを使って最大公約数的な商品を出すよりも「作る人」という個性を出した方が「着る人」としての満足度が高いだろうなと。自分自身もそうですし。『OSOCU』は大量生産を目指しているわけではないので、そこはバランスを取りながら活用していくつもりです。

サトウ:ものづくりのプロセスとAIを上手く共存させることが大切ですね。

谷:はい、業務全体としてはAIを積極的に取り入れつつも、人の手で作る部分はしっかりと残していく。OSOCUとしては人の手で生み出される工程に重きを置くことは大事にしたいですね。

「読んで知る『OSOCU』」の第10話目は「『OSOCU』が考える職人の定義」についてお届けしました。

『OSOCU』では、服づくりのストーリーも公開しています。公式オンラインストアにある「『OSOCU』について」には、どのようなビジョンを『OSOCU』が持っているのかも記載されているので、気になった方はぜひご一読ください。

今後も「読んで知る『OSOCU』」を月1ペースで随時公開予定ですので、お楽しみに。

取材・文:サトウリョウタ(つむぎ株式会社

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