『OSOCU』が地域のものづくりをする扉を開いてくれた有松絞り
長く続いている技術だからといって、それが商業的な成功につながるわけではありません。そんな中、有松絞りは今なお一定以上の産地規模を持ち、継続している伝統的工芸品技術の一つです。『OSOCU』では、昨年からあらためて有松絞のアイテムを少こしずつ企画しています。
2024年4月より始まった『OSOCU』のこれまでの振り返りや実現したい未来、アイテムが出来上がるまでのストーリーなどをライターがインタビューしながら伝える企画「読んで知る『OSOCU』」。
第4話目は、地域のものづくりという扉を開いてくれたきっかけになった「有松絞り」との出会いや魅力について、『OSOCU』代表の谷氏が語りました。インタビュアーはつむぎ(株)のサトウリョウタです。
「有松絞り」は地域のものづくりの扉を開いたきっかけ
サトウ:まずは「有松絞り」について教えてください。
谷:「有松絞り」は、愛知県名古屋市緑区周辺で400年近く受け継がれている染色技術です。正式名称は「有松・鳴海絞り」で、国の「伝統的工芸品」にも指定されています。染色前の括り技術に特徴があり、その種類は100種類以上と言われていますが、昔はもっとたくさんあり、今では再現できないものもあるそうです。
「有松絞り」については、色々とお世話になっているcucuriさんのページに説明や絞り技術の説明があるので、ご興味ある方はぜひ読んでみてください。
サトウ:ありがとうございます。続いて、「有松絞り」との出会いについて教えてください。
谷:2014年に「有松絞り」のワークショップに参加したことです。恥ずかしながら、名古屋市にも繊維業界の伝統工芸があることをこのイベントで知りました。シンプルに面白いなというのが第一印象です。今も絞りのユニークさにはさまざまな可能性を感じます。
サトウ:ちなみに、『OSOCU』にとって「有松絞り」はどういう存在なのでしょうか?
谷:地域でものを作るという活動の扉を開いてくれた存在ですね。今『OSOCU』に「有松絞り」を取り入れた服の数は多くありませんが、私個人としては大きな存在だと思っています。cucuriさんを始め、「有松絞り」を活用したブランドや作り手はいくつもあります。旧街道沿いではありませんが、私たち自身も有松エリアに工房を持っているので親近感もありますね。
『OSOCU』が「有松絞り」を知るきっかけに
サトウ:『OSOCU』で企画する「有松絞り」を取り入れた服の特徴(良い点)を教えてください
谷:1点1点個性がはっきり出るところですね。たとえばシャツに柄を入れようと思うと、最初から柄がついている生地を使うのが一般的。後から柄を入れられる絞り染めは数少ない方法です。「有松絞り」は括り工程にせよ染め工程にせよ、手作業部分で必ず個体差が出ます。現代風の均一的な量産に向かない面はありますが、だからこそ好きな人も多いのだと思います。
サトウ:「有松絞り」の服は昔ながらの技術ですので、洗濯はデリケートなのでしょうか?
谷:『OSOCU』が企画する服の洗濯に関しては、普通に洗っても大丈夫です。色落ちが不安な方はネットに入れておしゃれ着洗いをすればより安心です。そもそも洗濯がデリケートかどうかは、生地や染料に左右される側面が大きいです。それらがデリケートなものであれば、気をつけなければいけません。たとえば藍染めは色落ちしやすい、シルクは摩擦に弱い、などですね。
サトウ:今後『OSOCU』で「有松絞り」のアイテムを増やしていく予定はあるのでしょうか?
谷:職人さんが一つずつ作っているため、大きく数を増やすのは物理的に無理だと思います。個性が強くできる点を活かし、特別感や1点物としてあまり量産せずに種類を増やすのが良いかなと考えています。
白や黒の服は普遍性があるため、着る人をあまり選ばないんですが、「有松絞り」を取り入れた服は好きな人にしか刺さらないのも事実な気はしています。そういう意味で、アートワークだったり受注生産には向いていそうです。
サトウ:たしかに、生活のために服を着ている人には刺さらないかもしれないですね。
谷:そうなんです。今の『OSOCU』で企画する「有松絞り」の服は職人さんが一つずつ加工しているため、大量生産には向いていません。だから、一点物やごく少量の生産を好きな方に向けて定期的に企画を考えるがいいかなと思っています。どこかの企業と協業するときに、「有松絞り」のエッセンスを取り入れるのも面白そうですね。何かしらの形で今後も企画に取り入れ続けたいです。
サトウ:残しておくべき存在なのですね。
谷:そうですね。地域にとってもそうだと思いますが、そこは私たちよりもっと有松に根付いて活動している方がいるので、『OSOCU』はまだ「有松絞り」を知らない人へのきっかけの一助になれれば十分だと思います。地域を盛り上げるという観点でも微力ながら応援したいです。
そこからさらに興味を持った人は、他の企業さんを紹介できるので、さまざまな「有松絞り」の世界を体験してほしいです。
兼業職人という新たな可能性
サトウ:今後「有松絞り」の活用で考えていることはありますか?
谷:別の仕事をしながら染色をする兼業職人に可能性を感じています。別の仕事で収入を安定させながら、本当にやりたい染色に挑戦する形です。せっかく覚えたスキルがあるなら、やりたいことで収入が得られる環境を作れたら面白いんじゃないかと思っていて。たまたまのご縁なんですが、元有松絞りの会社の染色職人に兼業という形で、月に何枚かご自身のアトリエで染めていただいています。(絞り染めではなく草木染)
サトウ:収入の基礎は本業で得て生活の地盤を固め、その上でやりたいことをやるということですね。
谷:そうです。つい最近始まった取り組みですし、「有松絞り」の商品ではありませんが、少量ということもあり、兼業職人が作ったものは全部売れています。まだ10枚ほどなんですけど。全部売れるならお互いに継続しやすいですよね。
サトウ:自分がやりたいことで収入が得られるのは確かに嬉しいです。
谷:たくさん作ればいいという時代でもないですしね。事業として、本業として染色をやろうと思うと間違いなくハードルの次元が変わります。営業やマネジメントのスキルが必須だと思います。
サトウ:副業・兼業で試してみてから、判断してもよさそうですね。
谷:まさにそうで、やりたいことをやる一歩目に兼業っていい仕組みだなと思うんです。まだ予定は無いですが、「有松絞り」の企画でもそういう形で出来たら面白いのではないかなと考えています。
サトウ:他にも考えていることはありますか?
谷:はい、二つあります。どちらも短期的にどうこうではないですが。一つはお世話になっているcucuriさんと将来的に何かできたらいいなと勝手に思っています。今の有松工房を紹介してつないでくれたのも、cucuriの山上さんなんです。
サトウ:キーマンなんですね。
谷:はい、私にとってという話なんですが、振り返ると節目節目でお世話になっていますね(笑)。
サトウ:もう一つはなんでしょうか?
谷:「有松絞り」の個性を活かしていきたいです。なので、名古屋よりも個性的な人が多い東京や海外への進出をしてみたいという思いがあります。実は東京の会社さんと進めつつあり、試験的に出してみたところ好感触だったようで、今後楽しみな施策の一つです。
「読んで知る『OSOCU』」の第4話目は「『OSOCU』が「有松絞り」に見出した可能性をお届けしました。
『OSOCU』では、「有松絞り」を取り入れた服を販売しています。公式オンラインストアにある「『OSOCU』について」には、どのようなビジョンを『OSOCU』が持っているのかも記載されているので、気になった方はぜひご一読ください。
今後も「読んで知る『OSOCU』」を月1ペースで随時公開予定ですので、お楽しみに。
取材・文:サトウリョウタ(つむぎ株式会社)