【小説】天啓の果てに(中)
目的地に着くと、一軒の小屋がぽつんと佇んでいた。一見すると古びた建物だが、足を踏み入れた瞬間、木材の新しい香りが漂い、最近建てられたことがわかる。室内はまるで一人用のホテルのようだった。ベッド、机、テレビ、冷蔵庫、必要なものはすべて揃っている。机の上には「某国観察マニュアル」と高性能そうなカメラが置かれていた。そのカメラを使って窓から某国を観察せよ、という指示だ。
「これなら一年間の仕事も問題なさそうだな。」
セトは少し安堵しながらカメラをセットし、マニュアルを手に取った。調査報告の方法はすべて書かれており、難しいことは何もなかった。食料や観測道具、バーチャル世界で家族と会話できる端末まで用意されている。新しい環境に戸惑いながらも、セトはすぐに慣れ始めていた。
数日後。
観察を続けるうちに、セトは驚きを隠せなかった。某国の景観は自国と驚くほど似ている。気候、植生、街の作りまで瓜二つだ。ただ、人々の暮らしぶりはまるで違う。食糧の支給がないため、人々は自ら獲物を狩り、争いながら食べ物を分け合っている。時折、激しい口論や喧嘩も目撃した。
「なんて非効率で野蛮なんだ。」セトは眉をひそめた。
観察をしているうちに、セトは幾つかの人を見つけた。いつも威張っている国王、人望のある将軍、裏で何やら画策している門番。映画でよく見たことがあるが、この国はクーデターが起きるらしい。映画通りなら。