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貴方の知らないブートレグの世界

免責事項

あくまで筆者はかつて密かに栄えたブートレグとは一体どのようなものだったのかを書き記すことを目的としています。ブートレグの販売、購入に関しては一切推奨しておりません。

はじめに ブートレグとは一体何なのか

redditのスレより

ブートレグとはいわゆるアーティストが出してこなかったデモ、勝手にレコーダーで録ったライブ、レアテイクなどを非公式に収録した代物です。
アルバムを丸々コピーして出される偽物またはコピー品とは違います。
(↑それらはカウンターフィットと呼ばれます)

いずれにせよ当然生産自体は違法であり、ロクな代物ではありません。
そのようなアングラ製品だったために、ブートレグがどのような歴史をたどり、どのような物が存在したのか語る者も少ないのが現状です。
今回はそんなアングラで栄えたブートレグたちに焦点を当てて見ていきましょう。

発端

ブートレグの始まりはとあるバンドが発端でした。
そう「ビートルズ」です。

ビートルズはYesterdayなどで有名なバンドであり、世界中にロックというジャンルを流行らせることになった一つの立役者でありました。
そんなビートルズは天才集団でありましたから、ボツ曲も当然ありました。
ライブも大量にやっていました。そしてお蔵入りとなったアルバムもありました。
そのお蔵入りとなったアルバムがこのブートレグ誕生の始まりとなったのです。

ブートレグ業者による再現ジャケ

名前は「Get Back
あのAbbey Roadが出る前に密かに制作されていたアルバムでした。
しかし、メンバーの不仲が激化、引退騒動にまで発展しアルバムごと全て没になってしまいます。(その後Get BackはLet it Beとして大幅アレンジを施して出されることになります。)
しかし、そんなアルバムが没になる前に、何を思ったのか完成前のGetBackがFMラジオで放送されることがありました。当時はこのバンドは大人気でしたから、この新しいアルバムを売れば大儲けでしょう。
そしてこの放送を聞いたとある悪人がとんでもない思いつきをします。

ブートレグの始まり

wikipediaのkum backより

「Kum Back」このレコードを知らないブートレグコレクターは居ないでしょう。
そう、これらはレコードは前述したラジオ放送をレコードに記録したものでした。
噂によるととてつもなく売れたそうで、その売上は(得体が知れないのにも関わらず)もしBillboardに乗っていたら10位は硬いと証拠不明の噂が立ったりするほど。まさに一発大儲けのブートレグドリームでした。
その後スタコラサッサとこれらを作った悪人は証拠すら残さず消え、その話を聞いたビートルズのメンバーは大いに困惑することになります。

ブートレグ・ラッシュ

あまりに多すぎて本になった(Amazonより)

これらのブートレグの売れ行きの噂を聞いたら当然飛びつく人もいるでしょう。そうして今後は小遣い稼ぎ程度にやってしまおうと考えた学生たちがブートレグを生産していくことになります。
TMOQ、Wizardoはその集団の最たるものでした。プレス工場をこっそり間借りして生産されたレコードたちは、密かにしかし着実に話題になっていきます。
次第に両者は競争が激化、また小規模なブートレグ業者たちは常に他の業者と喧嘩状態、レアな音源の取り合いや警官の目をかいくぐりライブの隠し撮りを行うようになり次第に過激になっていきます。
腹にカメラを隠して妊娠中の女性に見せかけたり、帽子に細工してマイクを隠したり…と警察の目を欺きながら競争していった中、突如としてブートレグ界隈にある事件が起きます。

ブートレグの精鋭化

これが正規のジャケらしい(wikipediaより)

突如としてブートレグはある種の到達点に向かう事件が起きました。それが「Sessions」とCD時代の到来でした。
SessionsとはかつてEMIがブートレグ潰しの為に作り出したボツ音源集です。しかしメンバーのソロアルバムと被って売上が下がることが懸念され、反感に合い没になりました。
しかし突如として音源が流出、これらはブートレグとして出されます。ミイラ取りがミイラになるとはこのことです。(レコード会社を騙してLPの元となるメタルを仕入れて作られたという噂がありましたが、本当かは不明です。)
曲はすべて今までブートレグ化されてこなかったもので構成されており、(公式から出される予定だったものですから)音質は極上でした。これらは界隈にとっては衝撃的でした。もう粗悪なレコードは出せない。誰しもがそう確信させられるほどこのレコードはコレクターの界隈に波紋を呼ぶことになります。

初期のジャケットはこれ(良い画質のものがなかった)

更に追い打ちをかけるように「Ultra Rare Trax」が発売。Sessionsのテープが元になっているのですが、こちらの違いはなんとCDで出されたこと。その極上音質ぶりから飛ぶように売れていきます。あの音楽雑誌最大手のローリング・ストーン誌にも取り上げられるほどでした。
そしてCD時代が到来したことでその手軽さと高音質ぶりから更にブートレグ競争は激化していきます。エンジニアから裏取引か何かで盗ってきた大量のボツ音源、FM放送からシアターの録音装置で録音した高音質テープまでライブ音源がアーティスト問わず大量に出されることになり、多くの音楽会社の悩みのタネになります。
そんなことなどつゆ知らず、ブートレグ業者たちは日々音源を盗んでいくのですが、更にとてつもないものを発掘していきます。

世界で一番有名なスマイル

今までビートルズを主に出していたブートレグ業者たちは、そろそろネタがなくなってきたと考え、別のアーティストに目を向けることになります。
そんな中かつてビートルズと対を成すバンドとして有名だった「ビーチボーイズ」に白羽の矢が立ちます。ここの音楽会社は意地でもこのバンドのボツ音源を出したがっていたようで、70年代から90年代までずっとゴネていた記録があります。しかしここのリーダー、ブライアン・ウィルソン氏は出す気はまったくなく、いくらゴネようが全く気にもとめていませんでした。そのため意地になって音楽会社はセッションテープを編集して何かしらの形で出してやろうとしていたため、膨大な編集データの残骸がありました。そこでブートレグ業者はそれに目をつけます。
早速蓋を開けてみると、そこには大量のボツ音源がありました。さらにはまた別のボツアルバムまで。こんなお宝にブートレグ業者が飛びつかない訳がなく、多くのブートレグが出されることになります。
そしてそんなビーチボーイズのブートレグラッシュの中、ボツアルバムとして出された「Smile」が一波乱を巻き起こします。

ブートレグ業者による再現ジャケ

Smileとはかつてリーダーのブライアン・ウィルソン指揮の元、当時としては斬新だった大量に効果音や演奏を重ねる技術を用いて出される予定だった、非常に実験的なアルバムでした。前作PetSoundsに引き続きサーフィン路線から打って変わってドラッギーで繊細な雰囲気となり、その唯一無二な作風は未完成ながらカルト的人気を巻き起こします。
Smileは曲順すらない完全に未完成のアルバムだったため、新しいSmileのブートレグが発売されるたびに興味本位で多くの人々が買いに行くことも。まるでプラモデルを作るかのように数多くの「俺流Smile」が出されることになりました。
こうしてCDブート時代は第二の黄金期となり、様々なアーティストが被害に合うことになります。
しかし、このような売れ行きを見て、遂に音楽会社は反撃に出ることになります。

音楽会社の反撃

ジャケはリマスター版

時系列を戻って70年代、最初に反撃に出たのは意外にもローリング・ストーンズでした(たぶんね)。当時ライブ音源の流出が止まらなかったことを音楽会社が重く受け止めて、ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウトというライブアルバムを出すことになりました。これが結構売れたようで、音楽会社はどんどんアーティストのライブ音源を出すのですが、この時点では名ライブと言えるものを収録したアルバムというのは少なく、おまけにボツ曲も出されなかったので、ブートレグ界隈は微々たるダメージでした。
しかし次に反撃に出たビートルズで変わります。ジョンレノンが亡くなった日の後、追悼曲をメンバーと一緒に作っていた際、ボツ曲たちと一緒に出すこととなり、それらは「アンソロジープロジェクト」として世に出されることになります。

ジャケはリボルバーのアートを担当したクラウス・フォアマン氏が制作してます。

大量のボツ音源を引っ提げてやってきたアンソロジーたちは当然ブートレグ業者に大打撃を与えることになり、一気にブートレグは暗黒時代に突入していきます。
さらに2000年代からインターネットの発達によってブートレグとして出す予定だった音源たちが流出、(これらの是非は置いといて)ブートレグの音源は事実上どこでも聞けるようになってしまいます。こうしてブートレグは次第に廃れ、(一部の物を除いて)完全に消えることになります。

ブートレグの終焉とボツ音源たちのこれから

後々SmileやGetBackは公式に発売された(Amazonより)

ブートレグははっきり言ってアーティストにとっては最悪のものでしかないでしょう。時たま言った会話やジョークすら勝手にブートレグ化され、気がついたら炎上してしまう危険性すらはらみます。(稀にバンドイメージを壊すほどのとんでもないものが本当にあったりするんです。)
しかし魅力的であるのも事実。特にライブCDを出さなかったアーティストのライブ音源などはファンからすればもう喉から手が出るほどのレベルでしょう。
そうしたボツ音源は今はスーパー・デラックス・エディションなどのボックスで出されるようになりました。マニアックなアーティストだろうと取り敢えず出せば売れるだろうと踏んでくれる音楽会社も増え、様々なボツ音源がジャンル問わず出るようになりました。とてもいい時代になったものです。

終わりに

これからも数多くのボツ音源が公に出続けることになるでしょう。まだまだ発掘されていない音源は数多くあります。
これらはもうアーティストがアルバムを出さなくなったとしても、ボツ音源を心待ちにできる楽しみを一つ作ってくれています。それらがブートレグ最大の功罪だと私は感じます。

それでは最後にブートレグ化されたSessionsから一曲
「Christmas Time (Is Here Again)」

・出典


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