第6回「論題からの筋立てを読む」
クリティカルリーダーのかずえもんです。前回のクリティカル・リーディングは言葉の定義に着目しましたが、今回は、文章全体の「筋立て」を捉えてみます。
題材にするのは、岸田政権の目玉政策「新しい資本主義」の実行計画案に関する社説です。
論題を探そう
文章で自分の考えを伝えるとき、その骨格になるのが「論題(中心となる主張)」です。論文などはこの論題を中心に、根拠を並べながらその論題が正しいことを証明していくものなので、比較的構造がはっきりしています。しかし、一般的な意見文は必ずしもそうなってはいません。
今回題材にする社説の論題はどこか。探しながら読んでみてください。
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論題は見つかりましたか?
見出しをヒントに
「新しい資本主義「分配」はどこに行った」という見出しから、著者の中心となる主張は次の箇所であると考えられます。
見出しとあわせて整理してみます。
新しい資本主義の実行計画案では、分配の姿勢が後退し、「資産所得」という言葉を持ち出して軌道修正が図られている。いったい「分配」はどこに行ったのか。
これが論題になりそうですね。
では、ここからもう少し「批判的に」読んでいきます。
論題の正しさを示す部分は?
その論題がいかに正しいのか、根拠を示すほどに説得力は増していきます。次の論題には、どんな根拠が示されるとよいでしょうか。
<論題>新しい資本主義の実行計画案では、分配の姿勢が後退し、「資産所得」という言葉を持ち出して軌道修正が図られている。いったい「分配」はどこに行ったのか。
1. 「どこが後退しているのか」は述べられているか
分配の姿勢が後退、とあることから、現状と「以前はこうだった」という後退前の状態を述べ、今回の計画案がそれに比べて後退していることが証明されるとよさそうです。本文中から探してみましょう。
今回の実行計画案では(現状)
実行計画案発表前は(以前)
以前はどうだったか、という説明ではなく、「期待されたのは、新しい成長と分配の好循環を示すことだった」と述べられています。
つまり”看護師や介護士らの賃上げが盛り込まれ、給料を上げた企業への優遇税制も打ち出した。”ことだけでは期待外れだった、ということになりますね。
期待されていた分配はどのようなものであったのか。今回の計画案にある看護師や介護士らの賃上げと、給料を上げた企業への優遇税制ではどこが不足であるのかをサポートする部分があると、より論題の主張が強まります。
2. 資産所得を増やすことと分配の違い
つぎに、実行計画案では、(分配ではなく)資産所得という言葉を持ち出して軌道修正が図られている、と批判しています。この主張を根拠づけるとした場合、資産所得を増やすことでは分配の代替とならないことを説明すると説得力が出てきそうです。
資産所得に関する文を抜粋してみましょう。
① 来夏までに「資産所得倍増プラン」策定
② 投資には多くの人は向かわない
③ 富裕層の金融所得課税の見直しは先送り
④ 金融資産の膨張は国民の将来不安の表れ
抜粋した四つの箇所から、①来夏までに「資産所得倍増プラン」策定 したからと言って、②投資には多くの人は向かわないのだから、経済格差の是正には寄与しない、ということが読み取れます。
③は、富裕層を優遇する税制の見直しがなかったという批判なので、これは、全体の所得を上げるという話ではなく、格差是正の逆を行っている、という意味でしょう。
まとめると、資産所得倍増プランはワークしないし、富裕層優遇をそのままにしている、ということを訴えています。
給料賃金を上げることとは異なり、資産所得を増やすことに向かうのは、幅広いひとたちを助けることにならない(これでは分配の代わりにならない)という記述があると、より論題との関連性がはっきりします。
さて、のこる④ですが、なにか違和感がないでしょうか。
違和感を無視しない
もう一度④を読んでみましょう。
②ではどんなことが書かれていたでしょうか。
④では預貯金と有価証券を並べているので、必ずしも有価証券のみを指すわけではありませんが、金融資産が膨らんでいるということと、投資に多くの人が向かうとは考えにくい、という部分が整合しない印象があります。
この場合、②はまったく違う対象のことを述べていることがわかればすっきりしそうです。例えば、こんなふうに書くこともできるかもしれません。
要は家計には株の配当など投資から得る利益で資産を増やしてもらおうというわけだ。しかし、いま資産が全くない人が資産投資に向かうことはできない。また、あまり蓄えがなく、これまで全く投資を行ってこなかった人たちも、損をする不安から投資に向かうことは考えにくい。これでは、本来分配で救える人たちを救うことはできない。
つづけて最後のパラグラフ(結論部)を読んでみてください。
このように流れると、なぜ「分配」の旗を掲げ直すべきなのか、が明確になったように思えませんか。
不足を補って読めるから、不足に気づかない
私たち日本人が受けてきた国語教育の多くは、著者が何を言っているのかを把握する、ということに力点が置かれたものでした。こうした読解を重ねるうちに、私たちの脳は、相手が言っていないことを補って読むことが訓練され、不足に気づかなくなってしまっています。
これはとても優れた能力である一方、論旨をはっきりさせることが求められる場面ではハンディキャップにもなります。
批判的に読む訓練をする場合、この優れた「推し量る」能力は横に置き、相手の主張の骨格が何なのか。その主張を裏付ける根拠は充分述べられているか、客観的に見ていくようにしましょう。
それではまた次回!
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