で、AI時代にデザイン部門は何に投資したら良いのか?
GOGEN株式会社CXOの金子です。
前述の記事で、「AIに生まれた余剰を、何に投資したら良いか?」という問を投げかけたので、
この記事では、それに対する私なりの持論を言語化してみようと思います。
デザイナーはAIを効率化ツールとしてだけはなく、ビジネスの道具として扱う必要がある
今まさにツールとしてのAI活用が社会的に実用化されようとしています、figmaのAI実装はこれを決定づける大きな起点だったと思います。
しかし、これはAIがデザイナーにもたらす影響のほんの始まりに過ぎません。
デザイナーが単なるコストセンターであり続ける限り、AIの進化は人員削減に直結してしまいます。生き残るためには、AIを「効率化ツール」としてのみ捉えるのではなく、「ビジネスの武器」として活用する視点が必要です。
具体的には、以下の2つの能力を持つデザイナーが求められます。
インターフェースとしてのAIを顧客に届けられるデザイナー: AIを活用したUI/UXデザインを設計し、顧客に新たな価値を提供できる人材。
サービスモデルとしてのAIを提案できるデザイナー: AI技術を組み込んだ新しいサービスモデルを考案し、ビジネスの成長に貢献できる人材。
つまり、AIを自身の業務効率化に使うだけでなく、顧客に価値を提供し、さらにはAIだからこそ実現できる新たな価値を生み出すことができるデザイナーが、AI時代を生き抜く鍵となるでしょう。
これらの動向については、2024年初頭に公開した記事で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
参考記事: 2024年:AI時代のデザイナーに必要なキャリア形成予想
AIの影響を歴史から学ぶ
デザイナーの歴史は長く、AIの台頭のような技術革新に有史以来、何度もさらされ続けてきました。
写植やたとえばデスクトップパブリッシング(DTP)ソフトウェアの登場は、1980年代後半から1990年代にかけて、デザイナーの働き方やデザイン業界全体に大きな影響を与えました。
DTPの発展で過去に何が起きたか
①デザインの民主化: 従来、高価な専用機器が必要だった印刷物のレイアウトやデザインが、パーソナルコンピュータとDTPソフトウェアで手軽にできるようになり、デザインの敷居が大幅に下がりました。これにより、より多くの人がデザインに携わる機会を得ることができました。
②生産性の向上: 手作業で行っていたレイアウトや編集作業をコンピュータ上で行うことで、作業効率が飛躍的に向上しました。修正や変更も容易になり、短納期での対応が可能になりました。
③コスト削減: 印刷工程の効率化や、デザイナーが直接印刷データを作成できるようになったことで、印刷物の制作コストが削減されました。
DTPの発展により発生した課題
デザインが民主化され誰しもが触れられるものになることで、当時のデザイナーやデザイン業界は以下のような状況に陥ったと言います。
①職人の失業: DTPの普及により、植字工や写植工など、従来の印刷工程に関わる職人の仕事が減少しました。
②デザインの質の低下: DTPの容易さから、デザインの専門知識や経験が浅い人でも印刷物を作成できるようになり、質の低いデザインが氾濫する一因となりました。
③著作権侵害の増加: フォントや画像の違法コピーが容易になり、著作権侵害の問題が深刻化しました。
どうですか?
いまの"ツールとしてのAI"の発展によって起きていることと、非常に似通っていると感じたのではないでしょうか。
企業はより、スーパースターの育成に投資するべき
デスクトップパブリッシング(DTP)ソフトウェアの登場は、デザイン業界に大きな変革をもたらしました。
その結果、「市場の下位層の消滅」という現象が起きました。AI技術の進化も、DTPと同様にデザイン業界に大きな影響を与える可能性があり、歴史から学ぶべき教訓は多いはずです。
しかし、DTP革命は悪いことばかりではありませんでした。デザインに対する一般の理解が深まり、高度なスキルを持つデザイナーの価値が再認識されたことで、新たな需要が生まれました。これは、デザインの民主化がもたらした副産物と言えるでしょう。
真に高度なデザイナーは、DTPの普及によってさらにその価値を高め、新たな需要を独占するようになりました。この歴史から学ぶべきは、画一的なデザイナー育成では、市場の変化に対応できず、企業のROI(投資利益率)を大きく損なう可能性があるということです。
企業は、従来のような「ツールの活用」「セオリーの踏襲」「平均的な技術」を習得させるだけのキャリアパスから脱却し、「あなたは何のスペシャリストになるのか?」という視点で、採用・教育を行うべきです。
AI時代において、デザイナーは単なる「作業者」ではなく、「問題解決者」「イノベーター」「リーダー」としての役割を担うことが求められます。企業は、社員一人ひとりの個性や強みを最大限に引き出し、真の「スーパースター」デザイナーを育成することで、競争優位性を確立し、持続的な成長を遂げることができるでしょう。
デザインとコンサルティングの企業であるArtefact Groupは、2025年のデザイナー像を予測した記事「AI and the Future of Design: What will the designer of 2025 look like?」の中でも、AIがデザイナーの役割をどのように変革するか、について上記のような"スーパースター"の時代が続くことを示唆しています。
グラフィック・ブランドデザインへの再投資がすすむ
AIを活用したデザイン制作が進む一方で、新たなスーパースターデザイナーの育成には、AI人材以外のデザイン人材も重要になってきます。
それは、唯一無二のグラフィックデザイン、ブランドデザインを生み出すデザイナーです。
例えばWebサイト制作の現場では、これまで「当たり前品質」を安定的に提供できれば十分に差別化できていました。
しかし、AIの発展により、この「当たり前品質」のアウトプットが容易になったことで、横並びの状態から抜け出すことが難しくなってきています。
おなじように、グラフィックデザインやブランドデザインへの投資が活発化した、歴史上の象徴的な出来事としては産業革命 (18世紀後半~19世紀)があげられます。
産業革命期にも大量生産によって商品が溢れかえり、消費者の関心を引くためにグラフィックデザインが差別化のためのマーケティングツールとして活用されるようになりました。
このように、AIによって誰もが一定品質のデザインを大量生産できる時代だからこそ、人の心を掴むグラフィックやブランドの提案がより重要性を増しています。
下図:1859年8月、世界初の広告スローガン「ビーチャムズ ピルズ: 1箱1ギニーの価値がある」が登場。
この広告は当時の画一的な製品郡の中でも、大胆な色使いとキャッチーなフレーズで、消費者の目を引くことに成功しました。
このように品質が横並びになるタイミングでは、視覚的に新しい表現手法と抜きん出たブランド構築ができるデザイナーの重要度が上がるでしょう。
長期の全体設計を担う人材の重要性が上がる
もう一つのキープレイヤーとして、SaaSなどにおいて長期の目線での全体設計を担う人物の重要度が上がるでしょう。
AI技術の進化は、UIデザインの自動生成を可能にし、デザイナーの作業効率を大幅に向上させました。しかし、その一方で、長期的な視点でのサービス運用やシステム全体との連携といった、根本的な設計がおろそかになるリスクも浮上しています。
AIは、与えられたデータや指示に基づいて、短時間で美しいUIデザインを生成することができます。しかし、AIはあくまでもツールであり、プロダクトの長期的な成長やユーザーの真のニーズを理解しているわけではありません。そのため、AI任せのデザインでは、一貫性のあるユーザービリティやシステムとの連携といった、全体最適化の視点が欠落してしまう可能性があります。
特にSaaSのような長期運用が前提となるプロダクトでは、この問題は深刻です。AIが生成したUIは、初期段階では魅力的に見えるかもしれませんが、長期的な運用の中で、ユーザーの行動パターンやシステムの変化に対応できず、使い勝手の悪さや機能の不整合が生じる可能性があります。
このような問題は、ユーザー離れや解約率の増加につながり、最終的にはプロダクトの成長を阻害する要因となります。
AIの進化とともに、システム全体を理解し、長期的な視点でサービスのKPIに寄り添いUIデザインを設計できる人材の価値はますます高まっています。
このような人材は、AIが生成したデザインを評価・修正するだけでなく、プロダクトのビジョンや目標を理解し、ユーザーニーズを深く洞察した上で、システム全体との連携を考慮した最適なUIデザインを提案することができます。
また、プロダクトの成長に合わせてUIデザインを継続的に改善していくためのロードマップを作成し、開発チームとの連携をスムーズに進めることも重要な役割です。
AI時代のインターフェース再発明への投資
ここで言うインターフェースとは、単なるPCの画面のことではありません。それは、人間とコンピューターが情報をやり取りするための接点そのものです。そして、AI技術の進化によって、このインターフェースは大きく変化するべき時が来ています。
これまでのフォームやダイアログなどのインターフェースは、機械が処理しやすいように、人間が歩み寄って慣れることで成立してきました。例えば、初期のコンピューターは専門家しか扱えず、パンチカードや紙テープで命令を入力する必要がありました。その後、アイコンやマウス操作で視覚的に操作できるGUIが登場し、一般の人々にもコンピューターが身近になりましたが、それでもなお、人間が機械に合わせる必要がありました。
人間中心設計の提唱者であるアラン・クーパー氏は、著書『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』で、技術中心の設計思想を批判し、ユーザー視点の重要性を訴えました。
そして今、生成AIの登場により、人間とコンピューターは自然言語で対話できる時代を迎えようとしています。もはや、人間が機械に合わせる必要はありません。インターフェースを本来あるべき姿に戻すべき時が来たのです。
その本来あるべき姿とは、会話です。
人類は、約200万年前から簡単な音声やジェスチャーでコミュニケーションを始め、約10万年前には現代の言語に近い複雑な言語体系を確立しました。自然言語でのコミュニケーションは、このように人類にとって非常に長い時間をかけて培われてきたものです。
だからこそ、これからのインターフェースは、この自然言語での対話を基盤に再発明されるべきです。サービス、そしてコンピューターとどのように対話していくのか、私たちは改めて問い直さなければなりません。
▼AIを活用した対話形式の英会話学習アプリ"スピーク"
実際の講師と行うような英会話レッスンを、時間や場所を指定することなくいつでもはじめらることが価値。
▼チャットで対話形式に旅行プランを立てられるLayla
これまでの検索のインターフェースを一切廃し、AIコンシェルジュとの会話を通して旅行先を相談して予約することが出来る。
AIで体験を再発明し、語源となるような新しい価値を生み出す
AIの進化は、かつてスマートフォンが登場した時のような、新たなビジネスチャンスをもたらしています。AIという未開拓の地で、私たちはこれまで不可能だったことを可能にし、人々の生活を豊かにする新しい体験を生み出すことができます。
スマートフォンが登場した時、アプリストア、ライドシェア、モバイル決済など、様々な新しいビジネスが生まれました。それは、スマートフォンという新しい体験が、人々の生活様式を"拡張"し、価値観を大きく変えたからです。
同じように、AIも私たちの生活や働き方を大きく変え、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めています。
新しい体験が確立されていく過程では、様々なビジネスモデルが試され、淘汰されていきます。そして、最終的には、ユーザーに真の価値を提供できる体験と、それを支える持続可能なビジネスモデルが生き残るでしょう。
だからこそ、いまデザイナーは、AIによる新たな体験を発明し、未来を切り拓く役割を担うべきです。AIの能力を最大限に引き出し、人間の創造性と組み合わせることで、これまでにない革新的なサービスを生み出すことができるでしょう。
AIの進化は、私たちにとって大きな挑戦であると同時に、大きなチャンスでもあります。AIを活用することで、私たちはこれまで想像もつかなかったような新しい体験を創造し、社会をより豊かにすることができます。
この次の時代にどんな体験を創造することが出来るのか?いずれその体験を表す語源となるような体験を生み出していきます。
ぜひ、みなさんが思うデザイナーの今後も教えてください。