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不憫なタコ 三〜全三幕〜(2015/04/19)

第三幕 空高く上がれ


タコンヌはあっという間にその無数のタコの中に混ざってしまい、どこにいるのかわからなくなってしまった。

しばらく川の上で留まった後、無数の飛行タコは動き出し、僕らの真上を通り過ぎていった。走ってついていくと、ある場所で突然動きが止まった。そこはお兄さんのアパートの上だった。

一匹の飛行タコがふわふわと降りてきて、お兄さんの部屋の窓をキュポンキュポンと叩いた。窓を開けたお兄さんは何の動揺も見せず、その一匹の飛行タコをぎゅっと抱きしめて、そして惜しむように手を離した。一匹の飛行タコはまたふわふわと仲間のところに戻って、すぐに姿が見えなくなった。

しばらくして一階に降りてきたお兄さんの顔は、涙でぐしゃぐしゃで、声をあげて泣いていた。入口に立っていた大家さんはそのお兄さんの隣でじっと飛行タコの大群を見つめていた。

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頭上を飛んでいく飛行タコを見ながら、おしょくじくんが、タコンヌは立派に飛んでいるね。とつぶやいた。きっとまた会えるのかもしれないけれど、やっぱりさみしい。そうやって感傷に浸っていると、いきなり空からヒエ~という声とともにドングリングリンが降ってきた。たる美の頭で一回バウンドして、僕の手の中にコロンとおさまった。

タコンヌが僕らの部屋から飛び立つときに、窓枠に腰かけていたドングリングリンを吸盤にくっつけてしまったらしい。

「いや~えらい目にあいましたわ」と言いながらも、空の旅を満喫できたみたいで彼の顔はほころんでいた。たる美は空の旅に興味津々で、ドングリングリンも誇らしげに、空であった出来事を話していた。それからドングリングリンは、タコが涙を流すのかは知らないけれど、吸盤にそれが入ったおかげで私は戻って来れたのだと話していた。(おわり)

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#物語 #イラスト

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