不憫なタコ 二の一 〜全三幕〜 (2015/04/18)
第二幕 不憫なタコ 前半
微妙に話し合いに入り込んでしまったので、お兄さんの部屋で詳しく話を聞かせてもらうことになった。
お兄さんはこのタコ(タコンヌと呼んでいるそうだ)を去年の初夏に拾って以来内緒で飼っていた。その頃から、お兄さんの部屋の真下に住んでいる大家さんは、天井から聞こえてくる、キュポンキュポンという謎の音に悩まされ始める。お兄さんに聞いても知らないという。
「このタコのせいでイタコを呼ぶところだったんだよ。」
と、上手いこと言った風の大家さんを横目に、ふくれっつらのお兄さんは、
「だってかわいそうじゃないか。野放しになんてできないよ。こんなに人に懐いているんだ。」
タコンヌはおしょくじくんによじ登り、頭頂部をキュポンキュポンしている。
「ともかく、決まり事は守ってもらうよ。」
と言い残し、大家さんはタコイタコ…と韻を踏みながら出て行った。
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もしかしたら飛行タコかもしれない。と、おしょくじくんがつぶやいた。
チラシの裏にいびつな世界地図を書きながら飛行タコについて説明してくれた。
飛行タコとは、その名の通り、空を飛びながら気候のいい土地を目指して世界中を旅するタコだという。何年かに一度、僕らの地域でも見られることがあるそうだ。去年の春に飛行タコの目撃情報はあったみたいだし、その時期に雷やひょうが降ったりしたから、まだ小さかったであろうタコンヌはうまく飛び立つことができなかったんじゃないかという話になった。
僕たちは、このタコンヌは家族とも離れ離れになって、今のお家からも追い出されるなんて、なんて不憫なんだ! と思い、僕らの家でしばらく預かることを提案した。(第二幕後半につづく)
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