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ナマケモノなんかじゃない 六 (全七話)(2015/07/07)


第六話 流れ星

「こらこら不法進入だよ。」そこにいたのは、優しい笑顔を浮かべた園長さんだった。僕たちの想像していた通り、やっぱり園長さんは何かを知っていたんだ。

ごめんなさい。でも僕たちはナマケモノの光を見たいんです。そう伝えると、園長さんは山の方を指差して、

「ほらあそこ。光が動いているでしょう。」と教えてくれた。

ゆらゆらしながらものすごいスピードで四方から光が集まっている。そして、ゴゴゴという地響きのような風の音をともなって、山の方めがけて進んでいった。

園長さんはその光を見つめながら話してくれた。昔、この動物園の場所には塗料工場があって、そこに一匹のナマケモノが逃げてきた。ナマケモノと言っているけれど、それは実はナマケモノではなくて、ナマケモノにそっくりな、ナマケナイモノだった。

人里離れた山奥に住んでいたナマケナイモノたちは、とても賢く、二足歩行で素早く動く希少な種だったのだけれど、頭の固い人間たちが、ナマケモノはすばしっこく動くものではないのだと、ナマケナイモノたちを無理矢理ナマケモノのようにしようとしていた。

「ひどい…」とたる美が涙声で言った。
「ナマケモノさんたちがかわいそうよ!」たる美、違うよ、かわいそうなのはナマケナイモノの方でナマケモノじゃないんだよ。と、たる美を落ち着かせてからまた話を続けてもらった。

工場主はナマケナイモノを匿い、ナマケナイモノは仕事を手伝うようになっていった。そして、いつの間にか全国各地からナマケナイモノたちは集まり、その工場で働いた。ナマケナイモノたちのおかげで、工場の生産量は全国でもトップクラスとなっていった。

だけど工場主は年を取り、とうとう工場を閉めることになった。そして、ナマケナイモノたちには、ナマケモノのフリをしてでも、力強く生きていくんだと言い残して亡くなった。

それが何十年も昔の今日、七夕の夜のことだった。

工場主は仕事終わりに星を見上げるのが好きだった。たまに見る流れ星に喜んだ。以来、七夕の夜には無数の星が流れるようになったんだ。

真っ暗な空と山のせいで、間を走るナマケモノ(ナマケナイモノ)たちの光は、まさしく本物の流れ星のようだった。その無数の光を見ながら、僕は、その工場主さんとナマケナイモノたちの強い絆の物語を思い描いていた。(第七話に続く)

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#イラスト #物語 #ナマケモノなんかじゃない

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