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ADHDさんにとって、集中とは

 わたしはADHD(注意欠如多動症)の診断を受けています。仕事をするようになってから症状が目立つようになり、診断に至りました。ひとつの物事に集中し続けられなかったり、ケアレスミスを繰り返したり、物を落としたりすることが多くあります。



「集中する」の罠

 実際、私が仕事で叱られるときのフレーズNo.1は「ちゃんと集中して」でした。大抵のミスが、いつもどおり行えば起こらないことであったり、目の前の動きをみていれば防げたことだったからです。
 しかし、反省して「次はちゃんと集中しよう」と思って取り組んだところで、改善はしませんでした。同じミスを繰り返すことも度々ありましたし、そこに集中しようとするあまりに他のことが疎かになり、別のミスを誘発するだけでした。

 そもそも集中ってなに?と行き詰り、普段どのように集中しているのか、周りの人に聞いてまわったこともありました。
 
「仕事だから当たり前に集中してる」
「失敗して怒られたくないから集中する」
「OFFのときになにも考えてないから、必要なときにONになれる」
 
 返ってきたのはたいてい、集中する方法ではなく、気の持ちようだという答えでした。じゃあ私は気合いとかやる気とかが足りないの?という話になってしまいますが、そんなことはありません(……と思いたいところです。私の仕事に対する真面目さには定評をいただいていましたので)。

 

ルーティンがある安心

 私が仕事に集中したいとき、助けになっているのは、決まったルーティンをつくることです。

 集中しなければいけない事柄の前に、必ず行うことを決める。その事柄に関して手順があれば、毎回同じ手順で行う。そうすると、心が落ち着きます。集中するための準備ができる、という効果です。
 また、毎回同じ手順であれば、脳を使う要領を最低限にできるので、集中しなければいけない事柄を減らせます。
 
 デメリットとしては、ルーティンができなかった場合、不安や混乱でむしろ集中を乱してしまう可能性があることです。すべてをルーティンにするのではなく、適所で行うのが最も効果的かもしれません。

 執筆したノンフィクション小説でも取り上げていますが、私はルーティンが決まっている人と一緒に仕事をすることで、自分が落ち着いて行動できることに気がつきました。

 ミスが0になったわけではありません。それでも、「これなら大丈夫」と思えるだけで気持ちが変わります。前向きになれば、集中を乱す原因となる「不安」も薄れます。

 不安というのは、なにかを信じることができないときに涌いてきます。
 自分を信じるというのは、とても難しいことです。過去に失敗したことが甦る。怒られたくない。失望させたくない。一度恐怖に囚われてしまうと、負のループからなかなか抜け出せません。

 不安にならないために私が有効だと感じたのは、他のことで頭をいっぱいにすることです。
 おすすめしたい考え方がふたつあります。

 

頭の中を満たすために その1

 ひとつめは、一緒に仕事をする相手やサービスを提供する相手を、全力で信頼することです。肝は、「全力で」信頼すること。
 
 全力というのは、「自分が○○したら」とか「相手の自分に対する△△が」という、自分が主語になることや、自分に返ってくることに関する考えを一切捨てることです。
 ○○には、失敗、迷惑をかける、など恐怖に感じている事柄が入ります。△△には、評価、期待など、自分に対する相手の目線や見返りが入ります。
 
 すべての行動の原動力を「相手のために」という理由にしてしまえば、「自身の不安」という要素がつけ入る隙はありません。「相手に迷惑をかけるかも」など仮定の想像も捨てます。とにかく、一瞬一瞬、相手に尽くす行動を、とる。

 この考え方も、上記に添付した短編小説で取り上げていますので、ぜひご覧ください。


 あえて「尽くす」ではなく「信頼する」という言葉を使ったのは、行動ではなく気持ちにフォーカスしてほしいからです。
 自分が尽くす行動をとった結果、実際に相手のためになるか、相手が喜ぶか、というのは相手が決めることであり、結果論でしかありません。行動の目的は、得られる結果ではなく、全力になることそのものであってほしいのです。

「まず、信用とは条件つきの話なんですね。英語でいうところのクレジットです。たとえば銀行でお金を借りようとしたとき、なにかしらの担保が必要になる。銀行は、その担保の価値に対して『それではこれだけお貸ししましょう』と、貸し出し金額を算出する。『あなたが返済してくれるのなら貸す』『あなたが返済可能な分だけ貸す』という態度は、信頼しているのではありません。信用です」
(中略)
「たとえ信用に足るだけの客観的根拠がなかろうと、信じる。担保のことなど考えずに、無条件に信じる。それが信頼です。(中略)あなたはいま、『誰かを無条件に信頼したところで、裏切られるだけだ』と思っている。しかし、裏切るか裏切らないかを決めるのは、あなたではありません。それは他者の課題です。あなたはただ『わたしがどうするか』だけを考えればいいのです。『相手が裏切らないのなら、わたしも与えましょう』というのは、担保や条件に基づく信用の関係でしかありません」

参考:岸見一郎 古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
(ダイヤモンド社,2013年12月,231~233ページ)

 

頭の中を満たすために その2

 ふたつめは、自分を信用せず、うてる対策をすべてうつことです。

 落とすかもしれないから、絶対に落とさないスピードで持ち、移動し、落ちない場所に置く。忘れるかもしれないから、すべてメモして、絶対目につく位置に貼る。間違えるかもしれないから、事前に予習して、絶対に成功するようすべて叩き込む。

 この「信用しない」に、感情は入れません。どうせできないから、という悲観的な考えではなく、淡々と対策を講じます。
 それでも失敗してしまったら、次の対策をうつ。ここでも「やっぱりだめだ」と悲観はしません。作戦Aがだめなら作戦B。それも効かなければ作戦C。軍師のように、冷静に状況を分析して、自らに次の指示を出します。
 
 もし良い作戦が思いつかなければ、とにかく声に出します。周りのスタッフに相談できるならベストですし、家族や友達に「今こういうことで困ってるんだよね」と話すことによって、考えに整理がついて、自身で解決に繋げられることもあります。裏紙に思っていることを殴り書きするのも有りです。

 ここで肝になるのは、「絶対に」成功する手段を探し続けること。「たぶん大丈夫」「なんとかなる」はNGです。実際なんとかなるとしても、妥協せず、失敗の可能性は1%も残さない。その覚悟を実行に移せるだけの想いがあれば、失敗は減らせます。

 

私にとって、集中とは

 私はストラテラを服用することで、集中力を補っています。元々薬が効きやすい体質で、副作用が日常に影響することも少ないです(飲んだ1時間後くらいから欠伸が止まらなくなりますが、30分ほどで治まります)。

 薬を飲むことで集中力が上がったことを一番実感したのは、リズムゲームでした。
 不器用も相まってゲームが得意ではないのですが、薬を飲むようになってから、少し上のレベルの曲もクリアできるようになりました。スコアがでるので、どの程度できるようになったかもわかりやすいですね。

 仕事において実感があるかというと、実はそこまで多くはありません。いまだに、自分でもびっくりするようなケアレスミスをすることも度々あります。集中する、ということをスイッチを切り替えるように行うのは簡単ではありません。
 
 それでも、私が懸命に仕事にのめり込んでいる瞬間、いい動きをしている瞬間はあって、後から「あのときは集中できていたな」と嬉しくなります。
 薬はあくまで、仕事や生活がしやすくなるよう支えてくれる杖のようなもの。前に進むためには、自分の足で歩きたいと思っています。
 
 上記の「頭の中を満たすための考え方」を実行できていること――つまり、その考え方ができるくらい「貢献したい」と強く思えていること。
 それが、私にとっての集中です。


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おしるこのつき
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