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思い出の味

古内一絵さんの『マカンマラン』シリーズを読んでいる。ドラァグクイーン、シャールが夜中にひっそりと営むカフェに様々な悩みを抱えたお客さんがやってくる。仕事、友人関係、子育て、結婚、老後など共感できるテーマばかりで、シャールの出す賄い飯がお客さんの心を癒していく、ほろっと泣けるストーリー。お客の悩みに寄り添った美味しそうな料理の描写に、私自身の美味しいお店の記憶が蘇ってきたので紹介したい。

それは代々木八幡にある「イエンセン」というパン屋だ。地方から東京の大学に進学したが、一人暮らしのし始めと内気でなかなか自分から友達を作れない性格の私はとても寂しかった記憶がある。通学途中に小ぢんまりとした煉瓦作りの可愛らしい外観に惹かれて入ると、バターのとてもいい香りがして、それだけで少し心が落ち着いた。焼きたての食パンとデニッシュを紙袋に入れてくれたお店のマダムの笑顔が忘れられない。食べてみると優しくてほっとする味で、「千と千尋の神隠し」で千尋がハクに渡されたおにぎりを食べて涙を流すような、特別な美味しさがあった。

あれから25年くらい経つが、調べてみると現在でも営業されているようだ。あのお母さんはまだ接客していらっしゃるのかな。東京に行く機会はあるが、時間の限りがあって全く行けていなかった。今度こそは行ってみたい。

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