「わからなくても、感覚で観てほしい。」 - ゲスト編 #04 三宅美奈子監督
こんにちは、小布施短編映画祭広報です!
「わたしと映画祭」ゲスト編第4弾では、『夜間飛行』で第1回映画祭小布施賞を受賞された、三宅美奈子監督にお話を伺いました。
インタビュアーは、日髙健(以下、たけし)、石山咲(以下、さき)の2名が務めました。
小布施賞受賞『夜間飛行』の裏話
さき 『夜間飛行』は実行委員の中にもファンが多い作品ですが、どのような作品背景があるのでしょうか?
三宅監督 あの作品は、Studio METAで北見敏之さんが主宰する、俳優ワークショップの企画でした。脚本も、ワークショップにきている人に、当て書きのような形で書かれています。みんなのいいところを脚本、演出に反映させながらつくっていったという感じです。
たけし 『夜間飛行』って、震災があったり、お父さんもおじいちゃんも家を出て行ってしまったり、シビアな内容だと思うんですが、作品のトーンとしてはコミカルというか、最後は「なんくるないさ」と言って終わる。そこが魅力でもあり、不思議だなとも思ったんです。これは三宅監督ご自身のスタイルなのか、それとも、あの作品はあえてそういう風につくったんですか?
三宅監督 あの作品はあえてかもしれないですね。逆にいうと、普段そんなコメディーチックなものって撮ってないです。もっと深刻な描き方をしてもよかったんですけど、あの話をあの短さでやるってなったら、「それでも生きていかなきゃいけないもんね」っていう風に切り取った方がいいと思いました。決して軽く考えているわけではなく、その切り取り方によって背景にあるシビアな部分も染み込んでいくのかなって。
たけし そこは演出の中でつくっていったんでしょうか?
三宅監督 けっこう脚本のトーンがそうだったと思います。あとは、あの作品の特徴としては、稽古をけっこうしてるんですね。普段の現場は、ちょこちょこっとリハーサルをするだけのことも多いですが、ワークショップでやるからには突き詰めてやろうっていうのがあったので。稽古をする中で、よりよい雰囲気が出来上がっていったっていうのはありますね。私も脚本に対して指摘をするし、俳優ワークショップ主催の北見さんもプロデューサーとして入ってきて、みんなでつくっていった感じがあります。
さき みんなで作品を練っていく中で、三宅監督ご自身のこだわりはありましたか?
三宅監督 意外と、衣装へのこだわりがあったりします。例えば、主人公の女の子の衣装。可愛らしいんですけど、田舎から勢いで家出してきちゃったという設定なので、「がんばってお洒落してきた」みたいな格好にしてみました。あとは、居酒屋の雰囲気を再現するっていうのもこだわりました。居酒屋さんで撮影をしたんですけど、そこにきてる常連さんとかも呼んで、最後の方はぱんぱんにしました。楽しい雰囲気、やかましい雰囲気を出すっていうのも、けっこうむずかしいんです。
(第1回小布施映画祭 受賞者集合写真。中央に三宅監督。)
『夜間飛行』から2年。監督の映画づくりを振り返って。
たけし 2018年の『夜間飛行』以来、作風や映画のつくりかたで変わったことはありますか?
三宅監督 私が一番最初に映画を撮ったのが高校生の時で、そこからしばらく独学でやっていたので、何回か転換のポイントがありました。最初は、とにかく自分が撮りたいものを撮っていたので、なかなか伝わらないものも多かったです。それからだんだん人に脚本を書いてもらうようになって、『夜間飛行』のように、家族とか普遍的なテーマを描くようになって、しばらくそれでやってきたんですけど。やっぱりコロナ禍で、原点回帰じゃないですけど、やりたいようにやってみようかなと思うようになりました。それで自分で脚本を書いて、新作を撮りました。
たけし どんな作品なのか気になります!
三宅監督 舞台はディストピア。2026年、パンデミックのあとの世界です。SFの感じを前面に出すっていうよりかは、そこで生きている人々が何を考えて生きているのかっていう方向で書いたものを撮りました。
さき 直近の未来について、ディストピアを舞台にして描いたということですが、今の状況に希望を見出せないという心境なのでしょうか?
三宅監督 今は現場も動き出していますが、4月5月の自粛期間中は、何もできないなという気持ちでした。リモートで映画をつくったりする人たちはいっぱいいて、それはそれでありなんだろうなと思ったんですけど、自分は映画としてきちんとつくることができないと思いました。これからどうなっちゃうのかなっていう思いはすごく強かったです。自粛期間中の、先が見えないことへのもやもやを、そのまま映像化しちゃったっていう感じです。
さき 映画をつくることがもやもやを解消する方法になることもあるんですか?
三宅監督 自分の日頃の中でもやもやっと思っていることとか、疑問に思っていること、人の持ってるマイナスの感情とかを脚本にすることも多いです。それが原動力になってることもある。あんまりそればっかりになっちゃうと、独りよがりというか、自己満足になっちゃうのでよくないと思うんですけど。
さき 映画製作の動機付けみたいな部分が、そうしたもやもやなんですね。
三宅監督 私自身、今は自分の家族と仲は良いんですけど、思春期、20代前半くらいまで家族なのにうまくいかないことがありました。大きな問題を抱えてたわけじゃなかったので、人に相談することでもないし、でも自分の中ではもやもや生きてたっていう時期がありました。私はそういうとき、映画を観て救われたタイプなんです。映画を観て、自分と同じことを考えてる人もいると知ることができました。
たけし 監督はどんな作品に救われたんですか?
三宅監督 私は最初フランス映画から入ったんですが、一番救われたって思ったのが、レオスカラックス監督の作品です。彼は若い時に賞をもらって、才能があるとされてた人なんですけど、作品は、明るく楽しいものじゃないし、ハリウッド映画みたいな派手なものでもない。私自身が感じていたような、思春期のもやもやっとした感じを素直に表現してます。
さき 監督自身の作風にも影響を与えているんでしょうか?
三宅監督 意識してつくってるわけじゃないですけど、多分与えてると思います。こないだ撮った新作に関しては、影響を受けた部分が改めて出てきてる感じがしています。カラックスが2作目でディストピアを撮っていて、最終的にはSF設定あんまり関係ないよねっていう方に流れていくんですけど、そこはそのままです。
映画の道に進むまで。
たけし 今回、映画祭のコンセプトが「みるからつくるへ」ということで、観る側にいた人が何をきっかけにつくってみようと思うのかな、と考えるのですが。そもそも映画をつくろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
三宅監督 ずっと映画を観るのは好きだったんですが、高校生の時に、クラブイベントを手伝ったんですね。そこで自主映画を上映してたんです。それをみて、「自分らでつくってる人がいるんだ」って知って、自分でつくろうって思いました。当時、音楽も好きだし、洋服も好きだし、いろんな芸術方面に興味があって、映画をつくれば私が好きなもの全部入れられるわって思ったんです。高3の時に初めて撮りました。
さき 私だったら、「映画を撮ろう」って思っても、何をすべきか戸惑うと思うんですが、どうやって制作を始めたんでしょうか?
三宅監督 まずは一緒にやってくれる人を探しました。当時はようやくインターネットが徐々に普及してた時だったので、ネット上の掲示板で、映画好きが集まる場所があって、スタッフを募集してる人たちがいました。私も「よくわからないけど撮りたいので、とにかくカメラマンやってくれる人募集」みたいな感じで、全員初めましての状態でやりました。
たけし 高校生だったけど、本格的にクルーを集めたんですね。
三宅監督 話が合う友達があんまり周りにいなくて、友達とやろうという発想はなかったです。その時期学校が好きじゃなかったっていうのもあって、外に出て行きたくて、クラブイベントに顔出したりしてました。だから、全然知らない人を集めて、本来の映画に近いやり方でやりたいっていうのがありました。実は兄もカメラマンをやっていて、当時兄は映画の学校に行っていたんですけど、そこの力を借りるのも嫌だったので笑
たけし すごい行動力に満ち溢れた、自立心の強い高校生だったんですね。
三宅監督 高校生のときは早く働きたいと思ってましたし、自分で生活できるようになりたいっていうのがありました。あとは、本当に何も知らなかったので、とりあえずやっちゃえっていう勢いみたいなのはあったかもしれないです。
小布施短編映画祭の思い出と、映画に込める思い
さき 小布施短編映画祭に対して、どのような思い出がありますか?
三宅監督 楽しかったなっていう記憶しかないです。小布施の町自体も、いい風景だな、と思ってうろうろして写真を撮って帰ってきました。小布施の映画祭に呼んでいただけてよかったなっていうのは今でも思います。映画が好きなだけじゃなく、小布施が好きだからやっている人が多くて、地域が一体となってやっているから、人のあたたかさみたいなのが伝わってきました。町長さんとも名刺交換させていただいたり笑 町長さんと名刺の交換って初めてかもしれないと思いました笑 あとは、できたばかりの映画祭だからこそ、逆に企画を工夫してやってくださるところがあったかいなって。来てくれた方が感想を付箋で貼るスペースをつくってくださいましたよね。
たけし 2年も前なのに、そんなに覚えてくださっていて嬉しいです!
さき 映画を観た人の感想を聞くのは、どんな気持ちなんでしょうか?
三宅監督 私は良い感想でも、酷評でも嬉しいです。昔、自分でつくった映画の上映会をやって、アンケート用紙を配った時、「ノーコメント」とわざわざ書かれたことがあったんですけど、感想を持ってもらえないことが一番悲しい。全然面白くないとかだとしても、反応してくれるだけ嬉しいし、それが的を得ている場合もあるので、なんでも言ってくださいって思います。
さき 先ほど「原点回帰でやりたいようにやってみようと思うようになった」とおっしゃっていましたが、そういう、観客にとってわかりにくいかもしれない作品は、どんな風に鑑賞してほしいですか?
三宅監督 感覚で見てほしい、というのはあります。話の筋を追うということを突き詰めちゃうとわからなくなってしまうかもしれないけど、映画って言葉だけじゃなくて、映像があって、流れてくる音がある。お話はわからないかもしれないけど、そういうところは置いておいて観てほしいっていうのはあるかもしれないです。『テネット』を観て、「わかんなくていいやって思えば面白かった」っていう人も私の周りにはいました。映画ってそういうものかなって思っています。辻褄を合わせるというより、身をまかせて、とりあえず目の前で起きてる映像に集中してみよう、みたいな。
たけし 感覚でみるって、確かにって思います。予習をしまくって観にいくと逆に頭が混乱することがあるし。でも逆に、つくる側に立ってみると、全て意図的なわけじゃないですか。この子がこの服装を着るとか、沖縄料理屋だけど宮城の料理を出すとか。感覚で感じてもらいたいと思いつつ、どういう風に意図的にものをつくっていくんでしょうか?
三宅監督 確かにそうなんです。自分の中では辻褄は合わせてあるし、全部設計はしているんですけど、「ここは伝わらなくていいかな」「これを完璧に伝えようと思って表現しなくていいや」という部分が出てくる。そういうところが感覚的な部分になってくるのかな。それと、設計をしても、現場でたまたま発生することもあります。どうにもこうにもならなくて、逆に良い方向にいったり、原型から外れていったり。
さき だからこそ、どんな評価も受け入れよう、と思えるのかもしれないですね。
三宅監督 「映画はお客さんが見てもらって完成します」っていう監督って多いと思うんですけど、私もそう思っています。観た人がどんな感想を持とうと、どんな風に読み解こうと、こちらのものではないんです。きちんと見てくれて、感想を持ってくれたっていうのがとても嬉しいですね。
監督のこれから
たけし 最後に、これからチャレンジしたいこと、つくっていきたい作品について教えてください。
三宅監督 今、長編の脚本を何度か書き直しています。自分の思春期の時の話じゃないですけど、あんまりうまくいっていない女の子についてのお話です。コロナ渦を経験して、自分の人生を振り返ることが多かったので、自分の経験をテーマにした作品を撮っていきたいっていうのはあります。
さき 作品の完成が楽しみです!
たけし 今回インタビューの中で、思春期っていうことばが何回か出てきて、それが三宅監督の大きなテーマなのかなって話を聞きながら思いました。
三宅監督 あんまり思春期を脱してないんじゃないですかね。悩みが解消されてなくてひきずってるのかもしれない。
たけし 映画監督って永遠の少年みたいな人が多いなって思います。
三宅監督 大人になりきれない人たちがいっぱいいますね笑
三宅監督、ありがとうございました!
今年の映画祭も、監督や作品との出会いがたくさんありそうですよ!!
三宅監督 小布施賞受賞作品:
『夜間飛行』 監督:三宅美奈子
カラックス監督によるディストピアを舞台にした作品:
『汚れた血』 監督: レオス・カラックス
三宅監督プロフィール
1982年生まれ、埼玉県出身。
高校在学中より自主映画を撮り始め、現在までに短編を10数本制作。
2012年制作の「おごりの春」が国内映画祭にノミネートされて以降「なごやの喫茶店」「夜間飛行」などの作品が映画祭にノミネート、映画館で公開等されている。
現在はフリーランスの映像作家として活動している。
HP http://minakomiyakemovie.mystrikingly.com
twitter @nomuraminako
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