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【何一つ失わず、何かを得られるか(好きな音楽について)】


最近聞かれたこと「自分が音楽制作をする上で、こだわっているところはどこですか?」
僕は答えました。「メロディーですね、半音階を多用します。歌詞は全然…正しく聞き取れるかなどは気にしません。むしろ語感を優先するので、流れ的に1音邪魔だと発音しなかったり、"お"を"うぉ"と発音したりよくやります。」と。
これは桑田佳祐氏などもよく使う技法。例えば"愛の言霊"とかもそう。日本語の部分もたまに異国語っぽく聞こえるが、それが楽曲に味を出している。

すると「何故、そのメロディー(半音階)が好きなんです?」と聞かれたので「性癖みたいなものです。黒くて薄いタイツが好き、みたいな感覚に似ています。」と答えた…これは自分でも妙にしっくりくる例えだった。
ちなみに半音階が使用されていて分かりやすい曲だと、中田裕二氏の"灰の夢"とかかな。出だしからベースラインが半音づつ降下するのですが、そういう怪しげ?なメロディーが好きなのです。

そもそも自分が半音階好きであることに気付いたのは、音楽専門学生のときだった。当時懇意だった人に「君が好きな曲は三拍子と半音階使われているのばっかりやな。」と言われた。
その人は僕と違い、音楽理論に明るかった。当時はまだ好きな音楽の定義が"メロディーが暗いもの"程度だった僕は、ようやく自分が好きな音楽を少し明確に言語化できるようになった。と同時に自分の好きな音楽が、生まれ持った音感から無自覚に区分できていたことを知り、自身の感覚精度を実証できたようで嬉しくもあった。


上記のような出来事がもう一つある。
チューニングが狂っていたギターを弾こうとしたときの話。チューナーを取りに行くのが面倒で、耳でチューニングして弾いたら、何故かいつもより音がもの悲しかった…しかしどのコードを弾いてもちゃんとした和音になっていたので、不思議に思ってチューナーつけてみると全ての音が同じくらい低い。ハッとしてチューナーの基準音を"440Hz"から下げていくと、"431Hz"でチューニングできていた。
つまりどういうことなのかというと、現代ではラの音を"440Hz"に設定し、それを基準に他の音も合わせていくパターンが多いけれど、僕の場合は基準にするラの音が"431Hz"と低めになっていたので、全体的に低くチューニングしてしまっていたということです。

431Hzは"音がズレている"までいかない程度に
一般基準より少し低めのチューニング


だが、これがかえって良かった。このチューニングなら暗い曲が多い僕に合うし、弦を緩めている分、押弦の力も少なくなり弾きやすいので、それから弾き語りは431Hzチューニングで行うことにした。
こうした気付きは"絶対音感"だと得られなかったと思うので(チューニングがズレている時点で気持ち悪く、すぐ440Hzに直してしまうと思う)"相対音感"があったからこそ行き着いた結果だと思うのです。
要は「いきなり鍵盤弾かれて音当てはできないですが、ある程度の音感はあるから、半音階の動きを検知したり、基準音のズレによる体感違いを拾う程度ならできます。」って話。
ある意味、"ちょうど良い音感"なのかもしれない。

…僕のこうした"ヘタウマ至上論"は、音楽をやっている人間にすら理解されないことが多い。「理論は覚えたくないんです。」「楽器、上手くなりたくないんです。」と言うと、大体「え?」って顔をされる。少し説明したくらいでは、"こいつは練習や勉強が嫌いなだけだ"と思われるだろう。勿論、それもあって行き着いた考えではあるが、結果として得られたものはある。
実例?として、THE BACK HORNのメジャー2ndアルバムの曲"ゲーム"を使って説明しよう。
※下記は個人的な見解です。

このバンドはデビュー初期、特に作曲兼ギター担当の菅波氏がヘタだ。ギターソロもあまり弾けない。でもそれじゃイントロ、間奏、アウトロの3箇所以上もある間が埋まらない(埋めなくていい音楽もあるが、あくまで当時の邦ロック路線としての話で)
勿論、シングル曲はキラーフレーズで全体うまく埋まったものなどになったりするが、アルバム全曲そうするのはテクニックの引き出しが少ない人間では難しくなる…ではどうするのか。そもそも菅波氏はありがちなギターフレーズでも、エフェクター(音を変える機械)をかけ、印象を変えたりするのが非常に上手い。それだけでも素晴らしいのだが、上記"ゲーム"という曲のアウトロ2回し目(3:40あたりから)は、下記のような埋め方になっている。

8拍リズムを打っていて、4拍で1小節なので
1列が2小節


お分かり頂けただろうか?いわゆるシンコペーション(アクセントを本来くるべき位置からズラすこと、と便宜上言う)なのだけれど、2小節ごとに1拍づつアクセント位置を後ろにズラしている。
最初に聴いたときは "なんておバカなアレンジだ!"と感動した。誰でも演奏できるのに、稚拙過ぎて思い付かなかった…でもインパクトがある!
たぶん菅波氏がテクニカルなギタリストで、聴いてすぐアドリブを弾ける人間なら、ここはリードギターで埋まったことだと思う。仮にこのアレンジ案を出したのが他メンバーだとしても、ギタリストが上手ければそこに至るまでに定石的解決をされ、面白いアレンジにならないパターンは多い気がします。
※あくまで個人的な見解です。

…なんだってそうなのですが、"得ることは失うこと"だと思う。心の痛みに慣れれば感受性を失い、優しくなれば尖りを失い、技術的に上手くなれば下手さゆえの発想は失う、これらは逆も然り。
「何かを手に入れるには、何かを手放せ。」
全てにおいて、"何一つ失わずの体得"など成立しないと思うのです。
以上!またね。

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