情の部分
きのう6日、中日から日本ハムへFA移籍した福谷浩司選手が、エスコンフィールド北海道で入団会見を行いました。ファイターズのユニホーム、似合っていましたね。東海ラジオのwebサイト、わたしのブログで、12月30日に福谷選手とお会いしたことを書きました。
記者会見が終わり次第、改めて、あの日ふたりで話した約1時間のことを、書ける範囲でnoteに綴ります。
きのうの会見で、福谷選手は「自分の伸びしろは、どのあたりに期待しているか」という問いに「一番は、メンタルというか感情、情の部分かなと思っていて。」と答えていました。年末、あの日も福谷選手は「気持ち、情」という言葉を繰り返していました。「いまの野球はデータ、数値化されたものを追い求め、可視化されています。僕もそういうものを追うタイプですし、皆さんもそういう選手だと認識してくれていると思います。ただ、データや数値を追い求める中で、改めて最後は【気持ち】だと感じているんです」と話していました。感情や気持ちを強調すると、とかく「昭和だ」と敬遠される風潮がありますが、わたしもプロ野球選手に取材で接していると、最後は負けん気だったり、そういうメンタルの要素で結果が変わってくると思っています。「心・技・体」という言葉があります。かつての野球界はあまりに「心」を大事にしすぎていたかもしれません。故障を気持ちで乗り越える、というエピソードが美談にされてきました。いまはどうでしょう。わたしは「体・技・心」の順かなと感じています。まずは体調の不安が少ないこと。そして高い技術を持っていること(ここにデータ、数値を理解する脳も入ってくるでしょう)、そして最後が心。
『聴く将棋』を担当していて、毎月、将棋棋士にインタビューしていても同じことを感じます。AI全盛、対局の序盤はAIにより研究しつくされています。しかし、将棋に2度、同じ棋譜はありません。中盤から終盤へのねじりあいになったら、データや数値ではない「心」で勝負が決まります。実は以前、福谷選手からも「大澤さん、棋士をインタビューしていても最後は気持ちだと思ったりすることないですか?」と聞かれたことがあるんです。
福谷選手は「僕みたいな選手がFA権を行使して、他の球団に移籍することで、プロ野球界全体のFA権行使へのハードルが下がるかもしれません」とも話していました。昨季の推定年俸は2,000万円。人的保証を必要としない「Cランク」の福谷選手。どの球団も獲ってくれない、いわゆる「セルフ戦力外」への恐怖心はありますが、福谷選手のFA宣言&移籍は、野球界に一石を投じたかもしれません。また、FA移籍すると「○年○○億!」という見出しが躍りますが、福谷選手は2年契約で総額9,000万円(プラス出来高)。FA移籍史でもっとも年俸が低い選手の可能性もあります(余談ですが、慶應義塾大学出身者で初めてのFA移籍選手だそうです)。
どこまで書けるか悩みながら進めています(苦笑い)。最後に、これはビジネスで大変役に立つと思ったのが「相手をよく見ることの大切さ」です。きのう、福谷選手はファイターズとの交渉の中で「まずはよく見ていただいているのが素直にうれしかったですし」と話していました。もちろん、交渉の席に着いた中日もヤクルトも「よく見ていた」はずです。でも「よく見ていただいていた」という、その中身、精度、ポイントが福谷選手の心を動かしたのでしょう。これも「情」の部分です。「よく見ていることは大前提、相手の心を動かすポイントはどこか」というこを探ることの大切さ。これはアナウンサー職としても営業職としても、非常に大切な視点だと学びました。
福谷選手の移籍が発表された翌日、すぐに栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサーから、福谷選手に電話があったそうです。興奮気味に話す栗山さんからの言葉で、福谷選手の心に一番刺さったのは「遠慮せず、何か思ったこと、感じたことがあれば、なんでも言ってくれ」だそう。本人のレベルアップはもちろん、チームとして、組織として、より良いものを目指していく栗山さんの姿勢が凝縮された言葉かもしれません。
バンテリンドームナゴヤでの再会、楽しみにしています。
大澤広樹