営業をしない
営業嫌い
フリーになって20年になりますが、自分は営業をしません。
何故か?
やりたくないからです。
駆け出しの頃は人の紹介などで行ったりはしました。
ですがやはり向いてないし、極力やりたくないという思いが強くなるばかりでした。
同業の友人には営業大好き!と言う人もいるし、ココやYouTubeで売れっ子イラストレーターさんのノウハウとして『営業に行く!』と仰る方はいるのでそのこと自体は全然否定しないし、むしろ正攻法としてやって苦にならないのであればやった方がイイとは思います。
その事を理解していただいた上で、個人的な見解として自分は営業をしないでどうやって続けられているか?
という事を振り返って考えてみました。
営業をやりたくないと思うには理由があるはず。
自分は何故営業がやりたくないか?
大まかには
1.コミュ障(人見知り)だから
2.効率が悪いから
という事ですが、簡単に言えば
『人見知りでめんどくさがりでイヤなことをしたくないから』
です。
1.コミュ障
まあここら辺はイラストレーター、もしくは人見知りと自覚する人全般に言える事とは思いますが、独りよがりの自分語りと思って読み流していただければいいかと思います。
自分は人と話す事自体は嫌いではありませんが、気心を知れない相手・波長の合わない相手に合わせたり自分から話題を提供するのが苦手です。
話を振られればそれなりに話す事は出来ますが、もちろん話を膨らませたり出来ないし、また極端に自己肯定感が低いので自分を売り込むという事ができません。
そしてウソが下手です。
自分を実像以上に大きく見せたり、相手に不利益を与えて自分が得するような嘘を吐く事に抵抗があるのか、後ろめたい気持ちが態度に出てしまったり、バレるのが怖くてウソを突き通す事が出来ません。
つまり”営業トーク”というモノが得意ではありません。
ただ、フリーになった辺りから、居酒屋での一人飲みを始めたこともあるからか他人の話を聞く事が多くなり、また自分の体験した事の無い話を聞くのが楽しくて、聞いたり自分の思う所を正直に話したりするうち話好きな人に好かれるようになり、悩み事やら別れ話やらのゴタゴタに巻き込まれた事も少なくはありません
2.効率が悪い
自分の体は一つなので持ち込みが出来るのは基本的には一件。
営業先でまともに売り込みも出来ない自分が電話なりメールなりをしてアポを取り(それだけでも大分ハードルが高い)、営業先に行ってプレゼンする。
相手は必ずしもウェルカムな姿勢じゃないし、誰だかも仕事が出来るか出来ないかわからない人にこき下ろされる事すらありうる。
そんなことに一日の何時間かと交通費を費やす。
しかもその作業を何十回、何百回もやらなければいけない
もう考えただけでも行きたくない。
じゃあどうするか?
営業はやりたくない。
けどそれじゃ仕事は来ない。
20年前はまだSNSも今ほどではなかったので、営業ツールとしてはなかなか難しいものがあり、またSNSで発信する文章力も絵力も行動力も実績もやる気もありませんでした。
そこでおおさわ考えた
営業をしないでもいい絵を描く
イラストレーターになった当初、自分には特に描きたいタッチも無ければ、描きたいモノもありませんでしたが、人の顔や表情を描くのが好きでした。それに反して風景や背景は苦手意識があり、あまり描きたくありませんでした。
ではそれでどうやったら仕事が来る絵を描けるのか?
自分は「ビジネス・教育・健康」のジャンルに目を付けました。
「ビジネス」は大まかに言えばスーツを着た人を描く仕事、ビジネス書や社内資料、名刺の渡し方や、お辞儀の仕方、あとは画像のようなビジネスをイメージ化したイラストなどです。
「教育」は想像通り教科書やそのほかの資料、英語のテキストなど、教育にまつわる仕事です。
最後の「健康」は健康にまつわる医療・スポーツなどの仕事です。
マガジンハウスの『ターザン』の挿絵などは駆け出しの頃に色々描かせてもらいました。
これらは
「誰もがあまり描きたがらないけど、ずっと仕事が発生するジャンル」
だと当時の自分は考えました。
出版が元気だったころは、雑誌にしてもマナー本にしても毎年なり数年に一度は情報が更新され、その度に新たな本が出版されました。
また自分のポップながらもマンガ過ぎないタッチが真面目だけど固くなり過ぎないようにしたいクライアントの需要にマッチするのではないかと思い、ウェブサイトに作品をアップした所、思惑通りの仕事が来ました。
ネット黎明期には素材集なる書籍やCDROMが販売されており、そこにイラストを提供するという仕事もありました。
今でいうストックイラストといったところでしょうか。
ただ自分はお題に応えるイラストを描く事が楽しいので、自分が興味のないお題を考えてイラストを描くという作業は向いていないので、ストックイラストに関しては余りやる気がありません。
これは20年前だから通用した考え方かもしれません。
ただ自分の絵がどう使われるかを想像して、その仕事に合わせたイラストを描いてみる事は大事であると考えます。
勝手に営業してくれる所を探そう
まずデザイン会社で培ったウェブ制作のノウハウを使って自分でウェブサイトを作りました。
今は自分のウェブサイトを持つハードルは大分下がりました。
ファイルにまとめた営業用のポートフォリオは持って行かなければいけませんがウェブサイトは置いておくだけで勝手に営業をしてくれるし、出先でもスマホやタブレット見せることが出来るのであって損はないはずです。
またウェブ専門の知識が無くてもAdobeのソフトを契約すればAdobe Portfolioを使って無料でウェブサイトを作れますし、Instagramなどでイラスト専用のアカウントを作っておくだけでも良いかもしれません。
【Adobe Portfolio】
https://portfolio.adobe.com/sites?locale=ja_jp
つまり、イラストを探している人がすぐにアクセス出来てイラストを見られる場所は無いよりはあった方がイイと思います。
ウェブサイトは作りました。
ではそれを多くの人の目に留まるようにしなければいけない。
という事で次にやったのは、当時はウェブサイトにリンクが多いと検索に引っかかりやすいという事で「リンクサイト(画像の下の部分に並んでいるアイコンがソレ)」というホームページのリンク先だけをまとめたサイトがあり、その中でもクリエイターズ特化、更には審査ありというある程度のクオリティーにハードルを設けたリンクサイトに積極的に登録しました。
今これに変わるモノは何だろう…と考えましたがあまりありませんね。
強いて言えばSNS内のコミュニティとかでしょうか。
でもそれだけで見てくれるかというと難しい。
そこで考えたのはイラストエージェントへの登録。
もちろん今でもお付き合いのある会社はありますが、SNSで自ら広く発信できなかった駆け出しの頃は、多くの企業にコネがありイラストレーターに仕事を振るこれらの会社に大分助けてもらいました。
今はインスタやXでプロ・アマ問わず絵を描ければ作品の発信は簡単になり、その誰もが多くの人の目に触れる事になった分、見つけてもらえる確率は逆に低くなってしまったかもしれません。
そういう意味では企業から案件を直に依頼されてイラストレーターを探すこれらのエージェントへのアプローチは無意味では無いと思います。
来た仕事をちゃんとやる
営業できないし特に描きたい絵も無いんだから、せめて来た仕事はしっかりやろう。
それが自分の基本理念でした。
折角来た仕事を一回きりの仕事にしない為にも、出来る限りリピートしてもらえるように仕事に臨む。
100のオーダーを100で返すのではなく、何か次も頼みたくなるように自分なりに1でも10でもプラスして返すことを心がけて仕事をすることは、その結果相手がどう思っていたとしても、また次につながらなかったとしても、その姿勢を持ち続ける事、もしくはそれを楽しんでできる事がこの仕事において特に大切な事と考えます。
イラストレーターという仕事はクライアントの仕事があって初めて成り立つ仕事です。
クライアントのオーダーがあって、それに絵で応える事で成り立っているので、自分の好きな絵を好きなように描きたい人にはとても辛く、私のような「特に描きたい絵も無いけど、絵を描くのが一番ラクだったから」くらいの方がこの商売には向いているのかもしれませんし、イラストレーターとして長く続けられている方々にはそういう人の方が多いかもしれません。
とはいっても若い頃は大した絵でもないのに無茶なオーダーによくブチ切れていたので、駆け出しの頃から今までお付き合いのあるクライアントは数えるほどもありません。
ただそれでも入れ代わり立ち代わり数年ごとのスパンで多くのクライアントとお仕事をして今まで何とか生き残れています。
攻めも上手いし、守りも上手い。
そんな人はあまりいません。
自分はどちらかというと攻めを捨てて、守りを徹底しました。
営業はしない、嫌な仕事は受けない。
けど一度自分が「受ける」と決めて受けた仕事は嫌でも辛くても納得できない絵でも最後までやる。
もちろん若い頃は嫌な仕事も受けました。
ただそれもやる年の数だけ仕事も増えるしやりたいことも変わります。
その時々でやる・やらないの選択肢は変わっていいと思います。
ただ受けたからには嫌だろうが何だろうが完遂するのがプロとしての最低限だとも思っています。
自分はある程度の年齢になれば「やりたくない事・できない事」は無理してまでやる必要は無いと考えますが、ただその代りに『じゃあどうするか』は常に考え続けなければいけないとも思います。
やりたくないからやらない、それに替わる方法も特にない。では先細るのは当たり前です。
誰に何と言われようとも、正解かどうかもわからないけど「それをやらなくてもよくなる方法」を常に模索し続ける事がフリーランスという商売において何よりも難しく楽しいことかもしれません。
そんなこんな思いつく事をダラダラと描いてみましたが、それでこの先、生き残れるかは自分でもわかりませんし、自分を真似したからとて営業しないで仕事が来るかというとまったくそうとは言えません。
ただ
『こんな特異な例があっていいんだよ』
と思っていただければ幸いです。